第1117冊目  FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学 [単行本]ジョー・ナヴァロ (著), トニ・シアラ・ポインター (著), 西田 美緒子 (翻訳)


FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学

FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学


同じ言葉の威力


熱心の聴くと当時に、言葉のミラーリング(鏡に映したように相手とまったく同じ言葉を使うこと)が大切だと、高名な心理学者で著書も多いカール・ロジャーズ(一九〇二――一九八七)が研究で明らかにしている。言葉のミラーリングは、単純だがとても威力のある心理療法のテクニックで、短い時間で相手と気持ちを通じさせる効果をもつ。私はFBI時代に、相手が心を開いて話してくれる雰囲気を作るために、この方法が大きく役立つことを知った。


ロジャーズは、心理療法を施す相手の心に根ざした質問をすることによって、その相手とのあいだに治療効果の上がる関係を築けると考えていた。そのために、ただ患者の言葉をよく聴き、患者が使った言葉をそのまま使って返事をした。もしも患者が「私の家では」と言えば、ロジャーズも「あなたの家庭では」ではなく「あなたの家では」という言葉を使う。患者が「私の子どもは」と言えば、ロジャーズも「娘さん」ではなく「子ども」という言葉を使う。言葉のミラーリングは、医学、心理学、販売、金融、統治など、親しみを感じる関係を築くことが重要な仕事で、力強い道具になる。


残念ながら、ほとんどの人の言語は自分中心で、会話でもそれぞれ自分が好きな言葉を使っている。たが最も効果的にコミュニケーションするには、会話する相手の言葉を使わなければならない。そうすることによって、相手の心の中にあるもの、言語的に――心理学的にも――気持ちが落ち着くものを、映し出して見せることができる。会話する相手と、すぐに同調もできる。


私は五〇代だが、若いころから何か問題があれば「プロブレム」という語を使い、今は同じ意味でよく使われる「イシュー」という語を使ったことがなかった。だから、誰かに「これで問題はありますか?」と声をかけるとき、イシューと言われると、プロブレムほどの実感はわかない。私は「イシュー」という言葉にほとんど共感をおぼえることはなく、おそらく同年代から上の年代の人たちも同じだと思う。


言葉の好みをミラーリングできない状況では、ビジネス界で働く人たちを対象にしたセミナーでよく見かける。顧客が自分と同じように専門用語を理解している。または使っていると、はじめから決めてかかっている場合だ。だが、そうとは限らない。気を配り、慎重に耳を傾けなければいけない。顧客が、「何ドルかかるの?」と尋ねてきたら、「統一小売価格は……」などと返事をしないように。相手の使っていない難しいことばを使うを、話はしていても効果的に通じ合うことができず、心の響くコミュニケーションにはならない。もし顧客が「今の景気は本当におろそいい」と言うなら、相手が「おそろいい」と思う気持ちを理解していると伝える必要がある。だから「不安なお気持ちはわかります」と言ってはだめだ。顧客は「不安」なのではなく、「おそろしい」のだ。相手の(自分中心ではなく、相手中心の)の言葉を使えば、相手にすっかり共感していることを表現できる。相手は無意識のうちに、心の深いところで自分が理解されていると感じ、打ち解けて会話がはずむようになる。