第2016冊目 FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学 [単行本] ジョー・ナヴァロ (著), トニ・シアラ・ポインター (著), 西田 美緒子 (翻訳)


FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学

FBI捜査官が教える「第一印象」の心理学

  • 声のもつ力


矛盾しているように思えるかもしれないが、声にもノンバーバルがある。ニュースキャスターの声は、なぜみな似ているのだろうか? それは深みがあってなめらかな声を真似ようとしているからだ。何度かいっしょに仕事をしたことのあるキャスターのトム・ブロコウも、そういう声をしている。声に蜂蜜のような甘さがある。誰もがそうした声をもっているわけではなく、私にもないことは百も承知だが、それでも真似ようと試みる。私は緊張すると声が高くなりがちなので、それを克服しようと努力する。人は甲高い声を嫌い、高い声では尊敬の念を得られない。


二〇〇八年の大統領選挙のさなか、メディアにはヒラリー・クリントンに対する個人攻撃が数多く見られた。そのなかには、彼女の声は「うるさい」という評論家の意見もあった。女性がリーダーになるには、これまではるかな道のりを歩んできたわけだが――世論では――この先もまだ長い道が続くことを思わせる意見だった。女性は中性的な声を心がける必要がある。声が「うるさい」という印象を与えたら、または高すぎる、哀れっぽい、暇をもてあました金持ちの女の子たちみたいだとみなされてしまったら、それをもとに判断されることになる。中性的な声を出す心がけは、男性にも当てはまるアドバイスだ。


調査によれば、私たちは誰かの声を嫌いになると、その人を遠ざけるか、完全に無視する傾向があるという。不快な声は受け入れられず、悪い印象を与えることがある。もし私が、整形手術を受けるのと時間をかけて声に磨きをかけるのと、どちらがよいだろうかと相談を受けたら、お金を節約し、声を磨きなさいと忠告するだろう。声の出しかたを身につけた苦労話を、たくさんのニュースキャスターやテレビのパーソナリティーから聞いてきた。同じことを、女性の警察官や海兵隊員、また男女を問わず製薬会社の販売担当者も言っていた。彼らが自分の声に磨きをかけるのは、それによって違いが生まれるからだ。低くて深い声ほどいい。


ここに、まわりの人を心地良くする声の使いかた、またそうすべき理由を、いくつか簡単にあげておこう。

  • 会う前に声を聞くことは多く、そのときの声から印象が生まれる。もし電話の声で驚くほど不快になれば、本院に会う気が起こらないのは想像できるだろう。
  • 相手の注目を引いて、さらにそのまま注目を保っておきたいなら、声を抑えること。声を張り上げないことだ。静かな声の落ち着いた話しぶりによって、言葉に力強さ、威厳、強い意志をにじませることができる。これは直感に反するやりかたで、仕事でも日常生活でも十分に活用されていない。多くの人は大声や絶叫によって力が生まれると思っている。でもそうではない。スーパーマーケットで子どもに向かって「やめなさい」と大声を張り上げている親や、言うことを聞かない犬を怒鳴り散らしている飼い主をよく見かける。ところが、声はどんどん大きくなるのに、無愛想な子供も犬もいっこうに悪さをやめない。反社会性人格障害の男が、かつてこう言っていたのを思い出す――「おまわりが俺に向かって怒鳴り始めるのが好きなんだ」。「どうして?」と、私は尋ねた。「だって、やつらがカッとなっている証拠だもの」。相手に自分の言うことを聴いてほしかったら、自分を尊重してほしかったら、声を抑えるようにしよう。
  • 言葉をミラーリングを練習すること。第1章で、同じ言葉を使って相手と気持ちを通じさせるカール・ロジャーズの方法を説明した。もし相手が「私の子どもたちが」と言ったら、「あなたの娘さんたちが」とは言わない。もし相手が「これがプロブレムだ」と言ったら、「これがイシューだ」とは言わない。言葉のミラーリングをしてみらば、相手とあまりにも気が合うことに驚くだろう。
  • 間を置くこと、沈黙を挟むことには、大きな力がある。信頼性と落ち着きが生まれる。沈黙を嫌ってしゃべり続ける人が多いが、少しだけ抑制すれば思慮深さが加わり、より有利な状態で相手に接することができる。たしかに、緊張しているときは会話によって落ち着くが、逆効果のこともある。マーク・トウェインはこう警告している。「口を閉じたままで愚か者に見えるほうが、口を開いてすべての疑いを晴らすよりましだ」。間は、力強い交渉の道具にもなる。たぶん相手側は、こちらほどノンバーバルに長けていないから、もっといい条件を提案して話をつながずにいられなくなるだろう。