第1046冊目  ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫 [文庫]G.キングスレイ ウォード (著), G.Kingsley Ward (著), 城山 三郎 (翻訳)

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙    新潮文庫

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫

批判は手入れしよう


先週ハリーに批判されたしこりが、今週になっても君の顔や態度に残っている。心理的によほどこたえたのだろう。当然の報いかもしれないし、そうではないかもしれない。いずれにしても、自尊心を傷つけられたことは明らかである。

神さまは私たちをお創りになったとき、たいていの人間には薄い皮膚を与え、おまけに士気までも挫けやすくなるという間違いをお重ねになった。大昔からこうだったし、この先も永遠にこうだろう。

批判は、ときには欠点を見つけてのことではなく、きみに言わせたいことや、して欲しいことを、誰かがきみにそうさせようとしているに過ぎない。それが誰であるかが問題である。批判に骨の髄まで突き刺され、何日も何週間も苦しむまえに、その根源である批判者について調べてみるのが賢明だろう。つねに他人を批判している人だろうか? そういう人は多く、これは強い人と弱い人の両方に見られる性格の欠点だが、残念なことに、弱い人では、それがしばしば最大の関心事になる。心が狭く、物事に対する関心も浅いために、人生全体を考えて、もっとも価値のあることをする気になれないのである。

私の推定では、批判に関するかぎり、人生の途上で出会う人のうち、聴く価値があるのは一〇パーセント程度だろう。残りの九〇パーセントの人たちの動機は、羨望、悪意、愚かさ、あるいはただの無作法である。当然ながら、君が馬鹿正直に悩めば、それらがみな君の士気を挫くだろう。秘訣は、すぐさま批判者を評価することである。尊敬に値する相手だろうか? と、すぐに自分に聞いてみなければならない。その批判が例の九〇パーセントの人からのものなら、すぐに忘れること。不当な、あるいは悪意のこもった批判は、ひとたび受け入れると、何日間も、そして幾晩も夜更けまで、心を悩ますからである。

批判はどんな武器にも負けない破壊力を持つので、その扱いには熟練が必要で、与えるときには細心の注意を払わなければならない。さもないと不当に射程内に入った気の毒な人は、精神的に打ちのめされる。その反面、批判は極めて効果的な道具でもある。賢明な批判者が善意から巧みに与えるならば、それは与えられた人にとって、人生の途上での大きな手助けになるだろう。

建設的な批判は非常に手際よく与えられるため、受けるほうが批判されていることにほとんど気づかないので、良い方向へ導くための、さらに高みへと駆り立てるための、強力な推進力になる。行き当たりばったりに、深く考えないで与えれば、期待はずれの結果を招くだろう。批判が建設的になるか破壊的になるか、相手が間違いを改めてよりよい結果をあげようと決意するか、傷ついて士気を失うかは、紙一重の差でしかない。もし君の雇用主としての批判が社員から後者の反応を引き出す場合には、その社員の効率は何日も、何週間もがた落ちになるだろう。社員がその正反対の反応を示すように努めることが君の任務である。

人がみな違うこと、それぞれの心の動きが違い、性格や性癖も多様であることを、私たちはつい忘れがちである。思慮深い批判を与える人は、決してこの事実を忘れない。ある人のバラがほかの人にとってはしばしばタンポポであることを知っていて、自分の意見を述べるまえに、批判とそれを受ける人について、入念な評価をする。職場では、人びとが好ましい雰囲気のなかで、ある程度楽しく働くことが大切である。ある人の振舞い、態度、あるいは生活様式が他人に不快感を与え、全体の効率を下げる場合には、その人が多少の批判を受けるのは当然だろう。しかし、その批判をなるべく役に立つ、建設的なものにするように。