第916冊目  影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか [単行本]ロバート・B・チャルディーニ (著), 社会行動研究会 (翻訳)

影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか

影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか

外見の魅力


外見の良い人の方が他者との付き合いで有利になるというのは一般によく知られていることですが、最近の研究によれば、どうも私たちはその効果の大きさと影響が及ぶ範囲をかなり過小評価していたようです。魅力的な人に対しては、カチッ・サー反応が生じるらしいのです。すべてのカチッ・サー反応と同じように、それは将来への慎重な配慮もなく、自動的に起こります。反応それ自体は、社会科学者がハロー効果と呼んでいるカテゴリーに入ります。ハロー効果というのは、ある人が望ましい特徴を一つもっていることによって、その人に対する他者の見方が大きく影響を受けることを言います。身体的魅力がしばしばそのような特徴として作用することは、今や多くの証拠から明らかになっています。

これまでの研究によると、私たちには、外見の良い人は才能、親切心、誠実さ、知性といった望ましい特徴をもっていると自動的に考えてしまう傾向があります。さらに、私たちは身体的魅力が判断の過程で果たしている役割を意識しないで、このような判断を行っています。「器量の良い人は、善い人だ」という無意識の仮定が引き起こす結果のなかには、驚くべきものがいくつかあります。次の事例はその一つです。一九七四年のカナダ連邦選挙の結果を調べたところ、魅力的な候補者は魅力に乏しい候補者の二・五倍もの票を獲得したことが明らかになりました。ハンサムな政治家に好意を示したとう事実があるにもかかわらず、その後の追跡調査の結果は、投票者がそのようなバイアスに気付いていないことを示しています。実際、調査の対象となったカナダの投票者の七三%は、自分の投票は候補者の身体的魅力の影響を受けていないと、強い調子で否定しました。そのような影響の可能性を認めたのは、わずか一四%に過ぎませんでした。有権者は選挙における魅力のもつ影響力を否定する傾向がありますが、そのやっかいな効果を示す証拠は繰り返し確認されています。

魅力のもつ同じような効果は人事採用の場面でも認められています。模擬面接場面を設定して行われた研究では、仕事に必用な資格よりも応募者の身だしなみの良さの方が、決定に大きな影響を及ぼしていました。しかし、面接者自身は、外見はほとんど決定に影響しなかったと考えていました。魅力的な人にとっての利益は、これだけではありません。就職した後、給料日にも得をします。アメリカ合衆国とカナダで調査を実施した経済学者によれば、魅力的な労働者のほうが、そうではない労働者に比べて平均一二〜一四%も多くの給料を受けて取っているそうです。

裁判の過程も同じように身体的特徴や体格の影響を受けやすい、という厄介な結果を得た研究もあります。外見の良い人が現在の法制度のなかで有利な扱いを受けがちだというのは、今や明らかです。例をあげてみましょう。ペンシルバニア州で行われた研究では、刑事裁判が開始されるときに、七十四人の男性被告の身体的魅力を評定しておきました。そして、後で研究者がこれらの裁判の判決記録を調べたところ、ハンサムな男性の方がずっと軽い判決を言い渡されていることがわかりました。実際、魅力的な被告で刑務所に入れられたのは、魅力的でない被告の半数しかいませんでした。もう一つの研究では過失の模擬訴訟における損害賠償額の判決に関するものですが、被告の方が犠牲者より外見が良い場合、被告は平均五千六百二十三ドルを支払えという判決を受けました。これに対して、犠牲者の方が魅力的である場合には、補償の平均額は一万五十一ドルでした。さらに、陪審員が男性であれ女性であれ、同じように魅力の程度に基づいてえこひいきをしていました。

その他の研究でも、魅力的な人びとが必要なときに援助を受けやすく、聴衆の意見を変化させようとする際にも説得力があることが明らかにされています。ここでも、男性も女性も同じような反応を示しました。たとえば、援助に関するペンソンらの研究では、男性でも女性でも外見の良い人は援助されることが多く、この傾向は援助する人とされる同性同士でも認められました。もちろん、このルールにも例外が一つあるようです。その魅力的な人が直接的な競争相手、特に恋敵と見られている場合です。しかし、この例外を除けば、外見の良い人びとが私たちの文化のなかで、非常に多くの社会的利益を享受しているのは明らかです。彼らはより好かれ、より説得力を持ち、より多く援助されるとともに、より望ましいパーソナリティ特性や知的能力を持つと見られているのです。外見の良い人の社会的利益は、幼少のころから蓄積され始めるようです。対象が小学生である場合を調べた研究によると、大人は魅力的な子供の攻撃的好意をあまり邪悪なものとは見ず、教師も、外見の良い子どもの方がそうでない子どもより知的であると考えていました。

このように見てくると、身体的魅力のハロー効果が承諾誘導の専門家によってよく利用されていることは、決して驚くことではありません。私たちは魅力的な人物を好きになりますし、好きな人には従う傾向があります。ですから、セールス・トレーニングのプログラムに身だしなみに関する注意が含まれていること、流行の先端を行くブティックが応募者のなかから外見の良い人をフロア・スタッフとして選ぶこと。そして、男のぺてん師がハンサムであり、詐欺を働く女が美人であるということにも意味があるのです。