第902冊目  信念の魔術 [単行本]C.M.ブリストル (著), 大原 武夫 (著), 秦 郷次郎 (著)

信念の魔術

信念の魔術

目に訴える力

「よい本は人類の知恵の宝庫である。あなたはいつでもその宝庫を自分のものとして受けついてゆくことができるのだ」

と昔の人はいっています。しかし、世の中には本を読まない人が多いのは驚くばかりです。不思議なことですが、実業家は新聞や二〜三の実業雑誌のほかには読もうとしない人が多いのです。そのほかの職業人をいちいち調べてみると、だいたいにおいて自分たちの仕事に関係のある本やパンフレット類しか読みません。私がここで本というのは伝記、小説、歴史、科学などのものです。こういう種類の本のなかには、あなたの仕事に非常に役立つことがかならず一つや二つはあるものです。

だれもが知識を独占できません。知識は万人の共有です。しかも、これを実際に応用すると、絶大な威力を発揮するものです。多く読めば読むほど、自分の考えに刺激を与えることになります。もし活動する人なら、その人の力はそれだけ増大するわけです。

さて、ここで話題を一転して連想ということに及びましょう。まず荷づくりや包装のこと、顧客の目に訴えることについて一言しましょう。その目的は、まず人に暗示を与えることです。食料品、くだもの、野菜などを売る商品はよく知るとおり、商品にぜんぜん改善を加えないでも、人目をひく美しい包装によって品物は高く売れるようになります。食料品店をひとわたり回って見て、目をひく商品を仔細に眺めてみるとよくわかります。

包装の良否は、腕のいい一流の料理長とありふれたコックさんのあいだのちがいのようなものです。腕のいい料理長は、目に訴えるコツを心得ていて、大皿や小皿に盛るお料理をいかにもうまそうに美しく並べて出します。へたくそなコックはそんなことはおかまいなく、ただぞんざいに盛りあげるだけです。

かつて私の耕地の小作人であったイタリア人は、日本人と競争するとなかなか立ちゆかないということを理由に、小作契約の地代の支払いを渋りました。日本人は本能的に、包装をよくすれば、かならず売れるというコツを心得ていたのです。だから、セロリなどはていねいに洗い、新しい箱につめ、美しい紙に包み、気のきいた文句を書きそえて、セロリの質を賞揚してありました。イタリアの小作人は、だらしない男で賞品を洗いもせず、中古の汚い箱につめて売り、そして商売がたきの日本人がマーケットを奪ってしまうとこぼしてばかりいました。

この包装の問題を、あなた自身のからだについて考えてみようではありませんか。自分は、他人の目に魅力を感じさせるような訴える力をあるだろうか? りっぱな服装をしているか? 色彩の効果を知っているか? 自分の姿や気分に合うような色を研究しているか? 平凡な多くの大衆のなかで、自分の容姿はなにかとくに浮き出るような、りっぱ特徴があるか? もし以上のような点で欠けるところがあるとすれば、人間としての包装を完全にするために心を配らなければならないわけです。とかく世間は、まず容姿によって人を評価するものですから、その点を心してほしいものです。