第953冊目 信念の魔術 [単行本]C.M.ブリストル (著), 大原 武夫 (著), 秦 郷次郎 (著)

信念の魔術

信念の魔術

念願を心に植えつける

私はこのサイエンスをまだ手に入れないころのことでしたが、ある会社の高級幹部と知り合いました。その人は朝出勤してオフィスのデスクにつくと、さっそくポケットから思いついたことをつぎつぎと書き連ねておいた紙を出して、目を通すことにしているのです。やがて一分か二分のうちに会社の仕事は八方に向かって活動を始めるのです。その書きつけには、いろいろの広告媒体についての批判、販売方針、仕入れ事項、販売機構の改革案など、あらゆることが書いてありました。それらはみな、事情をりっぱに進めてゆくうえでたいせつな名案ばかりでした。

この本を書きながら、かつて私がある会社の副社長になって、その会社の苦境を切り抜けるために、この技術を活用した当時のことを思い出します。私はまず全従業員を半円形にすわらせて、向かい合いました。その話を始めるまえに、みんなに紙と鉛筆を用意させました。たぶん私がなに口述するのをノートさせるのだろうと、みんなは思ったらしいのです。しかし私がみんなに向かって、「諸君が一生のうちにいちばんほしいと思うものを、なんでもいいからその紙に書いてくれたまえ」というと、みんなあっけにとられたような顔をしました。そこで私は、「その紙にほしいものを書きさえすれば、それをかならず手に入れることが出来る方法を教えよう」と説明したのです。それを聞いて、二、三の青年は笑って問題にしなかったようですが、年をとった人たちは私の真顔を見てはじめて、自分の思いつづけているかねてからの望みを書きとめました。そこで私は若い人たちに簡単に、「もし諸君がこの会社をやめさせられて困るようだったら、私のいうとおりにしてもらいたい。会社の事業がうまくいかないようなことになると、われわれ全員は職を失って街頭に放り出されることになるのだからね……」といったところが、みんな私のいうとおりにしました。

この会合のあと、一人の青年社員が私のところへきてあやまりましたが、「まあ、いいさ」と私はべつにとがめだてはしませんでした。彼は言うのです。

「最初はどうもお話があまりに変だなと思ったのです。たとえば自動車が欲しかったら、自動車と書きさえすれば、それが手に入るなんて、あまりばかばかしい話だと思いました。けれども、この技術全体についての説明をよくうかがいますと、私もこれには十分に理屈があると思いなおしました」