第725冊目 「声」の秘密 アン・カープ/著 梶山あゆみ/訳

「声」の秘密

「声」の秘密

目次


第1章 声の生態(声が教えてくれること
声が生まれる仕組み
コミュニケーションを彩る「声の人格」
進化するヒトの声
母の声は強し
「母親語」は絆を育むメロディ
赤ん坊の声、恐るべし)
第2部 声を支配するもの(声と自分の複雑な関係
声に表われる感情
声の男女差
男性化する女性の声、女性化する男性の声
文化による声の違い)
第3部 声の温故知新(声の社会から文字の社会へ
人前での話し方はどう変わったか
テクノロジーは声を変える
声が盗まれ、失われるとき)


チャーチル
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ウィストン・チャーチルは、二一歳のときに次のように書いている。


「雄弁の才能に恵まれた者は、偉大な王の力よりも長く続く力を振るまうことができる」


若きウィストンは、軽い吃音と発音の欠陥があったにもかかわらず、雄弁術に磨きをかけようと決意する。彼は、十九世紀イギリスの政治か、ディスレーリの演説を分析し、その修辞技法を真似た。たとえば、短音節の単語を用いることや、劇的で迫力ある話し方で演説を締めくくってカタルシスをもたらすことなどである。時には一〇時間以上かけて一つの演説を組み立てた。


一九三〇年代から四〇年代のイギリス上流階級では、高い声が普通だった。それに引きかえチャーチルの声は低く、温かみがってよく響く。「獅子の心をもっていたのはイギリス国民である」と彼は語った。「私は幸運にも吠える役目を任されただけだ」。たしかに彼は吠えた。ある歴史家はこう書いている。「うなり、にわかに獅子のごとく吠え、葉巻とブランデーを思わせる声で詩的な文章を語る。死んでも降伏しないと頑とした抵抗の意志が、腹の底からじかに伝わってきた」


数年前にBBCラジオで実験が行われた。チャーチルが一九四〇年代の行った下院演説の原稿の一部をアナウンサーに読ませ、それを実際のチャーチルの演説の録音と比較したのである。アナウンサーは六〇秒かかったのに対し、チャーチルは九〇秒だった。チャーチルはゆっくりと話すだけではなく、言葉が一区切りするたびにしばしば劇的な間を挟む。声の高低差は、アナウンサーもチャーチルも一オクターブだった。ただし、チャーチルのほうが半音三つ分低く、最初から最後まで強勢の置き方も独特である。チャーチルの低音を聞くと、彼の力はイギリスに欠くことのできないもののように見えた。ドイツ空軍を迎え撃つ「ブリテンの戦闘」にさいした演説では、「だがもし失敗したら」というところで劇的に声を落とし、新たに暗黒時代の深淵を聞く者に垣間見せたのである。


あなたに、すべての良きことが、なだれのごとく起きますように♪


今日の声に出したい言葉


「それまでは心のなかで漠然と感じているだけで、確かめようのなかったことが、今や現実のものとして証明された。私には話す力がある!」――ヒトラー

 

編集後記


声の影響力はわたしが思っている以上のおおきなものでした。


「声」の秘密

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