第2047冊目 「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則

「権力」を握る人の法則

  • 説得力のある言葉を選ぶ


強い言葉は感情を呼び覚まし、理性を圧倒する。聞き手の心に響く言葉、イメージの想起力が強い言葉、具体的でその場にふさわしい言葉……。ウィストン・チャーチルがイギリス首相に就任したのは、一九四〇年五月のことである。一〇年にわたり政権から遠ざけられていた後の復帰であり、しかもドイツとの戦況は思わしくない。そんな中でチャーチルの雄弁術は戦う首相像を強く印象づけ、国民を鼓舞し、戦争の潮目も返る効果があった。


「諸君は、政策は何か、と問うだろう。私は答えよう。戦争を遂行することだ、と。海で、陸で、空で、われわれは戦う。諸君は、目標は何か、と問うだろう。私は一言で答えられる。勝利だ、と。どのような代償を払おうとも、どのような恐怖が待ち受けようとも、どれほど道が長く険しかろうとも、勝つのだ。勝利なくして生き残ることはない」


チャーチルは言葉の力を知っていた。「永遠に残るのは言葉だけだ」と語ったこともある。この点では、オリバー・ノースも同じと言えるだろう。ノースはイラン・コントラ事件の公聴会で、人質を返してもらうためならイラン人をディズニーランドに招待したっていい、と述べた。これを聞いた人々は、人質やディズニーランドを鮮明にイメージすると同時に、ノースの一途な気持ちを理解したことだろう。対照的にドナルド・ケネディの証言では、「契約書第○条の規定によれば」とか「会計監査に関する○○省の解釈に従えば」といった表現がやたらに多かった。法律のテクニカルな細部を盾にして、法的保護を得ようとしたのである。だが、ヨットや銀器が経費と言えるのかという常識的な疑問に答えるのに、これがふさわしいやり方とは言えまい。


会話分析を専門とする社会学者のマックス・アトキンソンは、演説や日常会話を分析し、話し手を印象づける言葉や有能と感じさせる言葉を調べている。そして、感情を刺激する言葉(たとえばアメリカでは、「社会主義者」「自由市場」「官僚的」「国家安全保障」など)のほかに、連帯感や親愛の情を強め、賛同を得られやすくする言葉があることを突き止めた。たとえば「みなさん」という呼びかけや「私たち」などで、実際にも選挙運動中にジョン・マケインがよく使っている。話し手が絆を意識させるような言葉を多用すると、聴衆は「この人は自分たちの味方だ」と感じやすい。