第698冊目 書いて生きていく プロ文章論 上阪 徹 著

書いて生きていく プロ文章論

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目次


第1章 その文章は誰が読む?
第2章 伝わる文章はここが違う
第3章 プロ文章家の心得
第4章 「話す」よりも「聞く」のが大事
第5章 プロの取材はこう行う
第6章 「書く仕事」のキャリア作り
第7章 「職業文章家」として生きる
コラム1 ライターという職業
コラム2 雑誌記事を作る
コラム3 書籍を作る


いい文章を読もうとしていますか?
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文章がうまくなるための方法論としては、間違いなく、うまいと思っている人の文章を読み込む、ということが挙げられると思います。世の中には古典も含めて名文と言われるものがたくさんありますが、大切なことは、あくまで自分がうまいと思った文章を読み込む、ということだと私は思っています。


世の中で名文と言われているものがダメなのだと言っているのではまったくありません。そうではなくて、自分で「何がうまいのか」を意識することが大切だと思うのです。人に言われたからではなく、自分に認識する。そうすることによって初めて、うまいものが見極められるようになる、と思うからです。


その意味では、書き手はどんな人でもいいと思います。小説家でもいいし、ビジネス書の書き手でもいいし、雑誌のジャーナリストでもいい。社内のレポートを書いた人でもいいし、社内報を書いている人でもいい。


私の場合は、先にも紹介した『名作コピー読本』に登場するコピーライターの方々の文章でした。それこそ駆け出しの頃は、何度も何度も読み込んだことを覚えています。これがもし、世の中で名文と言われているものを何度も読まなければならなくなったとしたら、私にはけっこう苦痛だっと思います。なぜなら、そういう本を手にとっても、私にとってはそれがうまい文章などとはちっとも思えなかったからです。しかし、『名作コピー読本』は自分から「これはうまいな」と心から思えるものだったからこそ、読み込むことができたのです。


もうひとつ、当時やっていたのが、これも先に書きましたが、自分も制作に携わっていた求人誌をパラパラとめくり、「これはうまい」と思うものをピックアップしることでした。今から振り返ってみれば、私は世の中でいう名文に納得できなかったからこそ、自分で勝手に「どれがうまい文章なのか」という審美眼を養おうとしていなのかもしれません。


誰かに「これがうまいよ」と言われるのではなく、自分自身の中で「これがうまい」というものを決めようとしていたのです。だからこそ、自分の中で「これがうまい」というものが確立できたのだと思います。


文章には100点満点はない、と書きましたが、自分にとっての100点はあると思っています。確立させるべきは、自分だけの100点だ、ということです。なぜなら、それがなければ、目指すゴールがないからです。うまいと思えるゴールがないのに、うまいというところに到達することはできません。文章の難しさとは、もしかすると、そのゴール設定の難しさにあるのかもしれません。でも、一度ゴール設定ができれば、後は追いかけるだけなのです。


あなたに、すべての良きことが、なだれのごとく起きますように♪


今日の声に出したい言葉


試しもしないで「できるはずがない」と言うのなら、実際にやろうとする者の邪魔をしてはならない。――作者不明

 

編集後記


先日、盲導犬を電車の中で見ました。


44歳くらいのメガネをかけた男性とメスのラブラドール・レトリバーは電車が来ると静かに座席に着き、男性の足下で体を小さく丸めています。


席の対面に座る女子高生二人組は、盲導犬が珍しかったのか、視線は一点に注ぎ込まれます。


私の席の隣のサラリーマンは、チラッと見ただけですぐにカバーをかけた本を読み始めます。


目的駅の着き、主人がハーネスで降りることをやさしく彼女に伝えます。


彼女はどっしたした足取りで主人をリードし、何事もなかったように電車から降りていきました。


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