第542冊目 上達の法則 効率のよい努力を科学する 岡本浩一/著

上達の法則―効率のよい努力を科学する (PHP新書)

上達の法則―効率のよい努力を科学する (PHP新書)

目次


第1章 能力主義と上達の法則
第2章 上達と記憶のしくみ
第3章 上達した人はどこが違うのか
第4章 上達の方法論―中級者から上級者になるステップ
第5章 スランプの構造と対策
第6章 上級者になる特訓法


深い模倣や暗唱をする
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模倣は学習の基本である。最近の教育の風潮は、模倣を軽視してきたが、誤った風潮だと私は考えている。


精密トレーニングのひとつの手段として、深い模倣をすることが有効である。


文章に上達する方法として、昔から写文が有効だと言われる。夏目漱石を学ぼうと思えば、万年筆で原稿用紙に「草枕」の有名な冒頭などを書き写してみるのである。書く速度でやっくりと文を味わってみると、読んでいたときには気づかないいろいろな文章上の苦心に気づく。


わずか30分書写してみただけで、目から鱗が落ちる思いをするはずである。たくさん書写すると、ああ、ここで漱石は1度休みをとったな、とか、ここで日が改まったのではないかなどということが想像できるようになる。


そしてその想像がだんだんはっきりしてきる頃、漱石の思考のリズムとでもいうべきものが身についてくるのである。不思議なことに、同じものを書写した人どうしがこういう話をすると、ここで休みをとったと想像する箇所がずいぶん類似しているものなのである。


時間がなければ、ワープロで写してもよいと思う。あるいは、声に出して読んでも、黙読するのとは全然違うという人が多い。とにかく、ある程度の時間をかせて、ひとつの作品、ひとつの作者とじっくり取り組んでみるのである。


英語が上達したいと思ったら、自分の領域で手本となるような英文、論文をみつけて、それを1度暗唱してみる。書写してもよいが、1度パラグラフひとつ空で言えるくらいに暗記してみる。


電車の時間を利用してみてもよい。そうすると、たんに英文の構造がわかるだけではなく、説得するための文の構造の作り方――英語には英語の説得の戦略があり、パラグラフの組み立てが日本語とまったく違うことなど――がしっかりわかる。


そうすると、たんに英語だけでなく、英語で専門的な主張のためにはどのような文の選び方が有効かということが体得できるようになる。短期間で外国語に長けるようになった人の多くは、必ず、この種の暗唱をしているものである。


この暗唱訓練では、可能な限り、模倣しよう、覚えようとすることが大切である。1度経験すれば納得できるが、覚えようと努力することから派生するさまざまりメリットがある。


暗唱することで、コードそのものが増加するということはあまりない。けれども、きちんと模倣し、暗唱するという圧力をかけることによって、コードのシステムが上層構造になり、システムそのものが豊潤化するということがありる。


コードシステムが発達しなければ、1チャンクに入れられる情報量の増大がはかれず、ひとつひとつの演技を最後まで覚えることができないからである。そのことが、情報処理能力を豊かにし、感性を豊かにしてくれるのである。


あなたにすべてのよきことが雪崩ごとく起きますように♪


今日の名言


暗唱できるまで読む必要はない、理解度に差はない、と考える人もいるだろう。しかし、私にいわければ、その違いはあまりにも大きい。――齋藤孝


上達の法則―効率のよい努力を科学する (PHP新書)

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