第3340冊目 「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)  ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

  • 自ら無用の問題を起こさない


衝突すれば、怒りをはじめとする不快な感情が生まれる。すると冷静さを失い、戦略的なものごとを考えられなくなってしまう。だから、いつも自分に問いかけることが必要である。たとえば対決に勝利を収めたときも、「この勝利は周囲の目にはどのおうに映っているのか。自分は勝ってどうするつもりだったのか」と問うてみる。闘っているうちに勝つことが目的と化し、本来の目標が何だったのか見失うことはよくある。勝った勢いで余計な問題を引き起こさないよう、自重しなければならない。


ローラ・エッサーマンは、この種の失敗を犯したことがある。自分の壮大な計画に一歩踏み出し周囲の助けを最も必要とする大事なときに、友人の上院議員に頼まれて、さして深く考えずに公聴会での証言を引き受けてしまった。公聴会で問題になっていたのは、スタンフォード大学病院とカリフォルニア大学サンフランシスコ校付属病院との合併だった。この合併は大失敗に終わり、のちに解消されるのだが、それはともかく、議場に入った瞬間にエッサーマンは学長のマイク・ビショップがそこにいることに気づく。ビショップからは、証言をするのはいかがかとやんわり反対されていたのである。乳ガン治療センターの改革をめざすエッサーマンにとって、病院の合併はさほど重要な意味を持たない。そのようなことに大学当局の意思に逆らってまで首を突っ込むのは、どうみても賢い行動とは言えなかった。


SAPのジア・ユーサフは、この点では対照的である。会議などで自分の部署に不利なことが決まっても穏やかに受け入れてしまうので、ときに部下を憤慨させるほどだった。「闘うのはいつでもできる」というのが彼の口癖である。上司や同僚に対して攻撃的にならないおかげで会議を円滑に終わらせることができ、その結果として無用の敵をあまり作らない。すると、いくらか時間はかかり遠回りすることになっても、結局は望み通りの結果に持ち込めることが多かった。


必要もないときに敵を作ったり混乱を巻き起こしたりすることは、避けなければならない。これは、すでにお話した「七つの資質」の中の「集中」に通じる。自分が何をめざしているのか、そのためにはどうするのかが最も効果的か、あなたは十分理解していなければならない。その道のりの途中で敵に遭遇したら、対決せざるをえまい。だが本来の目的と直接関係のない脇道に問題にいちいち首を突っ込むのは単に時間の無駄であり、起こさなくてよい問題を自ら招くことになる。