第2849冊目 私の財産告白 本多 静六 (著)
- 作者: 本多静六
- 出版社/メーカー: 日本経営合理化協会出版局
- 発売日: 2000/01/01
- メディア: 単行本
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- 勉強の先回り
かつて私は、総理大臣だった桂太郎大将からこんな話を聞いたことがある。いまに至るも、生きた人間処世訓として、その感銘はなかなかに深いものがある。大将曰く、「自分は陸軍に身を投じて、常に次から次へと勉強の先回りをやってきた。大尉に任ぜられたときは、少佐に昇進する年限を三年と考え、その初めの半分の一年半に、大尉としての仕事を充分に勉強しつくした。そうしてのちの一年半に、少佐に昇進したときに必要な事柄について一生懸命勉強した。だから、予定の年限がきて少佐になると、大尉時代に早くも準備を積んでおいたために少佐の任務は安々と勤まって、他の者にくらべて綽々たる余裕を残した。そこでただちに次の中佐時代に必要な勉強を始めたのであるが、中佐になれば大佐の、大佐になれば少将のと、次々に一段階ずつ上のことがスッカリ身についたのだから、勤務もすこぶる楽であったし、成績も意外に上がった。したがって、だれよりも最右翼で昇進することができたのである」
当時すでに働き盛りであった私も、いまさら青年のように啓発されるところがあり、ウウムなるほどと思わず横手を打った。かの秀才にして、またこの努力である。彼が一介の武弁桂太郎に終らざりしも故ある時、と感嘆したものである。