第2592冊目 FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 ジョー ナヴァロ (著), マーヴィン カーリンズ (著), 西田 美緒子 (翻訳)


FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

  • 唇をきつく結んだ表情から交渉相手の不安を見抜く


私がかつてイギリスの船会社でコンサルタントをしていたころ、普遍的な手がかりがとても役立ったことがある。この会社から、船舶の装備を請け負う巨大多国籍企業との契約交渉に立ち会ってほしいという依頼があった。私は立ち会いを引き受けるにあたって、席上では提案されている契約をひとつひとつ取り上げ、ひおっつの条項を同意してから次の条項に進んでほしいと頼んでおいた。そうすれば、交渉相手の様子をじっくり観察し、クライアントにとって有利な情報をほたらすかおしれないノンバーバル行動を見つけやすくなる。


「注意する必要があることに気付いたら、メモを渡します」。クライアントにそう伝えた私は、後方に着席し、両者が契約の条項をひとつずつ検討していく様子を見守った。大切な手がかりを見つけるのに、時間はかからなかった。船のある部分の装備を詳しく指定する条項が読み上げられたとき――それは数百万ドルに相当する工事だったが――多国籍企業の交渉責任者が唇をきつく結ぶのが見えたのだ。契約のこの部分が、交渉相手にとって気になっていることは明らかだった。


私はクライアントにメモを渡し、この契約条項には問題があるから、見直してこうの場で徹底的に話し合うほうがいいと注意を促した。


その場ですぐに問題に取り組んで、条項の細かい内容に目を向けた両者は、顔を突き合わせて練り直すことができ、最終的にはクライアントにとって一三五〇万ドルの経費節減になった。交渉相手に不安を示すノンバーバルの手がかりが、問題を明らかににしてすぐ効果的に対処する必要があるという、重要な証拠になったのだった。