第2593冊目 FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 ジョー ナヴァロ (著), マーヴィン カーリンズ (著), 西田 美緒子 (翻訳)


FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

  • トラブルを嗅ぎつける


人が考えていることを知るための、最も重要なノンバーバルのヒントとして、「意図の手がかり」となるボディ・ランゲージの変化がある。意図の手がかりは、人が何をしようとしているのかがわかる行動で、これを見分けられる優秀な観察者には、予想した行動が実際に起きるまでに準備を整えるだけの時間ができる。


人の行動の変化に注目するのがどれだけ大切か、特に変化が意図の手がかりに関わる場合はどれだけ大きな意味をもつかを示す例として、私が働いていた店で起きた強盗未遂事件を挙げることができる。このとき、私はレジの近くに立っている男に気付いた。その男の行動が私に目についたのは、理由もなくそこにいるように見えたからだった。レジに並んでいるわけでもなく、何かを買ったようでもなかった。しかしそこに立っている間じゅう、目がレジに釘付けになっていた。


ただ静かにそこにいただけなら、そのうち私の関心も薄れて、ほかの場所に注意を移してしまったかもしれない。ところが私がまだ見ている間に、男の行動が変化した。具体的には、鼻の穴が大きくふくらんだ。明らかに何かの行動を起こす前に、酸素を取り込んでいる証拠だった。私が男が実際に行動を起こす一秒前に、何をしようとしているかを察知した。そしてその一秒で、警告を発したのだ。「気をつけろ!」と、レジに向かって大声で叫んだとき、三つのことが同時に起こった。


(a)レジ係が金額を打ち終えて、現金の入っている引き出しが開いた。(b)レジの近くに立っていた男が突進し、現金をわしづかみにしようと引き出しに手を突っ込んだ。(c)気をつけろという声に反応したレジ係が、とっさに男の手首をつかんで捻り上げたので、強盗未遂の男は金を落として逃げて行った。もし私が、この意図の手がかりを見落としていたら、男は強盗をやり遂げたにちがいない。ちなみにこのときのレジ係は、私の父親だ。父は一九七四年にはマイアミで小さな金物屋を営んでいて、私は夏休みにアルバイトをしていた。