第2353冊目 カリスマは誰でもなれる オリビア・フォックス・カバン (著), 矢羽野 薫 (翻訳)

カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

  • 間をおいて、息をして、ゆっくり


人生で初めてスピーチすると日の朝、私は目が覚めたときから自信にあふれていた。同級生に、地元の小児病院で献血をしようとすすめる簡単なスピーチだった。講義が始まる前の5分間を与えられていたから、満席の聴衆の前に立つことはわかっていたが、いい目的について手短に語るのは簡単そうに思えた。私は当時18才。1200人を前に立った経験は一度もなかったが、たいしたことではないと思っていた。みんなの注目を浴びながら、自信たっぷりに壇上を目指すのが楽しみでたまらなかった。


ところが、いざ階段に足をかけると、1歩ごとに胸の高鳴りが激しくなった。壇上に着いたころには息が止まりそうな気さえした。聴衆のほうを向いたとき、私は愕然とした。どちらを向いても顔ばかり、1200組の目が期待を込めて私を見えていたのだ。パニックで頭が真っ白になり、ほとんど息を継がずにしゃべりつづけた。念のために言っておくと、これは好ましくない例だ。スピーチを終えたときには目の前がちかちかして、ほとんど何も見えなかった。どうやって壇上から下りたのか、今でも覚えていない。


その後5年間は、スピーチの原稿を書くたびに、すべてのページのいちばん上に太字で殴り書きをした――「息をしろ!」。今でも新しいスピーチを練習するときは、原稿の数ページおきに「間を置いて、息をして、ゆっくり」と書き込んでいる。


家やオフィスで練習しているときは必要のない指示だと思うかもしれないが、ステージに立つと状況は何もかも変わる。頭がカッとなって、アドレナリンが血管を駆けめぐり、脳がフル回転する。自分のまわりがすべてスローモーションに見えるほどだ。脳がフル回転を続けると早口になりやすいが、聴衆は普通のスピードで動いている。