第2109冊目カリスマは誰でもなれる オリビア・フォックス・カバン (著), 矢羽野 薫 (翻訳)


カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

  • 間をおいて、息をして、ゆっくり


人生で初めてスピーチをする日の朝、私は目が覚めたときから自信にあふれていた。同級生に、地元の小児病院で献血をしようとするすめる簡単なスピーチだった。講義が始まる前の5分間を与えられていたから、満席の聴衆の前に立つことはわかっていたが、いい目的について手短に語るのは簡単そうに思えた。私は当時18歳。1200人を前に立った経験は一度もなかったが、たいしたことではないと思っていた。みんなの注目を浴びながら、自信たっぷりに演壇を目指すのが楽しみでたまらなかった。


ところが、いざ階段に足をかけると、1秒ごとに胸の高鳴りが激しくなった。壇上に着いたころには息が止まりそうな気さえした。聴衆のほうを向いたとき、私は愕然とした。どちらを向いても顔ばかり、1200組の目が期待を込めて私を見ていたのだ。パニックで頭が真っ白になり、ほとんど息を継がずにしゃべりつづけた。念のために言っておくと、これは好ましくない例だ。スピーチを負えたときには目の前がちかちかして、ほとんど何も見えなかった。どうやて壇上から降りたのか、今でも覚えていない。


その後5年間は、スピーチの原稿を書くたびに、すべてのページのいちばん上に太字で殴り書きをした――「息をしろ!」。今も新しいスピーチを練習するときは、原稿の数ページおきに「間をおいて、息をして、ゆっくり」と書き込んでいる。


家やオフィスで練習しているときは必要のない指示だと思うかもしれないが、ステージに立つと状況は何もかもかわる。頭がカッとなって、アドレナリンが血管を駆けめぐり、脳がフル回転する。自分のまわりがすべてスローモーションに見えるほどだ。脳がフル回転を続けると早口になりやすいが、聴衆は普通のスピードをで動いてる。


聴衆の1人にあらかじめ頼んで、ゆっくりしゃべるようにという合図を出してもらうのもいい。話すテンポに気をつけることはとても有効だ。ゆっくりしゃべるほど、慎重で思慮深く聞こえ、人々はあなたの話をより注意を払う。


私はあの人生初のスピーチで、一瞬でも間を置いたら聴衆は二度と注目してくれないと思い込んでいた。実際、スピーチの途中で間をおくのは勇気がいる。しかし会話と同じようにプレゼンテーションの途中で間をおくスキルは重要だ。優秀なスピーカーの証でもあり、偉大なスピーカーにとってお主要なツールの1つである。意識して頻繁に間をおくこと。聴衆にあなたの言葉を待たせるくらいの自信を持とう。「ドラマチックな効果を狙う」という言葉どおり、間をおいてスピーチにドラマをつけ加えるのだ。


要点を話した後と、インパクトの強いストーリーを披露した後は、数秒の間をおいて聴衆に理解する時間を与える。ユーモアを言ったら、勇気はいるが、笑いが起きて静まるのを待ってから話を続ける。スピーチの始めと終わりも、間が重要な役割を演じる。壇上を中央まで歩き、聴衆のほうを向いたら止まる。3つ数えるあいだには何も言わず、ゆっくりと聴衆を見わたしてアイコンタクトを取る
永遠に思えるかもしれないが、やってみる価値は十分にある。この手の沈黙ほど、聴衆の関心を釘付けにすうるものはない。