第2055冊目 FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 ジョー ナヴァロ (著), マーヴィン カーリンズ (著), 西田 美緒子 (翻訳)


FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

  • 重力に逆らう足


嬉しくて興奮しているとき、私たちは宙に浮いているような歩き方をする。いっしょにいることに夢中になっている恋人同士や、テーマパークに入場したがっている子どもで、その様子を見ることができる。ワクワクしている人は重力を感じないらしい。こうした行動は見ればすぐわかり、毎日、いたるところにあるのに、人の目をすり抜けているように思われる。


人は何かに胸を躍らせたり、周囲の状況をとても心地よく感じたりすると、まるで重力に逆らうように爪先立ちをリズミカルに繰り返したり、跳ねるように歩いたりする。これも大脳辺縁系の反応が、ノンバーバル行動に現れたものだ。


私は最近、立ったまま携帯電話で話している人も見たことがある。その人は最初、両足をきちんと平らに地につけて立っていたのだが、話しているうちに左足の位置が変化した。かかとを地面につけたまま、靴を持ち上げたので、爪先が上を向く形になったのだ。そんな行動には気付かないが、別に意味がないと思って無視する人が多いだろう。しかし観察の訓練を積めば、そうした重力に逆らう足を見て、電話をしている人が何か嬉しいことを聞いたばかりだとすぐに解読できる。実際、私が近くを通り過ぎると、「ほんとう?そりゃすごい!」という声が聞こえた。でもその足は、ひと足先に同じことを黙って伝えていた。


動かずに立っているときにも、話している人が少し背を高く見せる姿勢になり、言いたい点を強調するために自分を大きく見せることがある。そしてそれを何度も繰り返す。これは無意識の動作で、話にまつわる本当の気持ちをそのまま表すことが多いので、とても正直な手がかりだ。その動作は話の筋に沿って現れ、感情と言葉を結びつけている。好きな歌の拍子とテンポに合わせて足を動かすように、私たちは何か嬉しいことを話すときにも、その内容に合わせて足を脚を動かす。


興味深いことに、重力に逆らう足と脚の行動は、臨床的鬱病の人にはめったに見られないという。体はその人の感情をそっくり反映する。だから、ウキウキしている人ほど、重力に逆らう行動をたくさん見せることになる。


重力に逆らう行動をねつ造することはできるだろうか? 名優か年季のいったウソつきならできるとは思うが、ごく普通の人は、辺縁系の命じる行動をどう調整したらいいかわからないはずだ。辺縁系の反応や重力に逆らう行動を自分の意思で真似ようとすると、わざとらしくなる。状況に対して控えめすぎる、またはぎこちなく見えるか、あまり生き生きしていない。腕を思いきり高く振り上げる挨拶を真似ても、うまくいかないのと同じだ。腕がすぐに下がって、ひじが曲がるので、演技だとわかってしまう。その身振りからは、わざとわしさが丸見えだ。自然に重力に逆らう行動は、たいていは嬉しい精神状態をとてもよく表し、心からのものに見える。


洞察力のある観察者に情報をもたらしてくれる行動のひとつに、重力に逆らう、「スタートの姿勢」と呼ばれるものがある。これは、立っている人が(地面に両足を平らにつけた)静止の姿勢から、片足のかかとを上げ、親指の付け根に体重をかかえる姿勢になることを言う。これからしようとしている意図を示す手がかりで、その人が足の動きを必要とする何らかの動作を始める準備ができていることを表している。もっと強いつながりを求めているか、心から関心を示しているか、立ち去りたいかだ。意図を伝えるすべてのノンバーバルの手がかりと同様、相手が何かをしようとしていることがわかったら、あとは前後関係とその人について知っていることを総動員し、その何かが何であるかを予想しなければならない。