第1172冊目 武器としての交渉思考 (星海社新書) [新書]瀧本 哲史 (著)
- 作者: 瀧本哲史
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/06/26
- メディア: 新書
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「ラポール」を重視する人
ラポールとはフランス語で「橋をかける」という意味で、臨床心理の場で、緊張せずにリラックスして振る舞える状態になるために、セラピストとクライアントとの間に信頼関係を生み出すことを「ラポールを築く」と言います。
心理学の研究では、以前から顔や存在を知っていたり、なんらかの共通の基盤がある人には説得されやすい、ということが明らかになっています。
一方で、「よそもの」や知らない人とは、たとえ良い話であっても取引を行わないというタイプの人は珍しくありません。
交渉においても、このラポールがきちんと交渉相手と自分との間に築けていると、話し合いがとてもスムーズに進みます。相手のバトナと聞き出すのも、たやすくなるでしょう。
しかし、ラポールを短期間で築くのは、なかなかむずかしいのが実情です。
ここでは、私が日頃からもはや無意識的に行っている5つの「カンタンな方法」をご紹介したいと思います。
1つ目は、「好意の返報性」という人間心理に働きかけることです。
「この人とはどうしても信頼関係を築きたい」と思ったら、まずはその人のことを心から好きになってみる。
そうすると、自然にそれが自分の態度に表れ、相手にも伝わります。
みなさんも学校で「あの子、君のことが好きみたいだよ」と言われて、急にその人のことが気になってどぎまぎするようになった経験はないでしょうか。
人は誰でも、自分のことを好きだと思ってくれている人に対しては、自然と好意を抱くものです。
非合理的な相手であっても、「なんだこいつは!?」と思わずに好意を持つこと。
コツとしては、9割のダメな部分ではなく1割の良い部分にフォーカスして、そこを好きになってみるといいでしょう。
そして、その好意を何気なく伝えることによって、相手との間にラポールが築け、合意が結びやすくなります。
2つ目の方法としては、「スモールギフトをおくる」というのも効果的です。
これは、「好意」を具体的な方法で相手に示すという行為になります。
男性であれば、バレンタインデーのときにたとえ義理チョコであってももらえたら、けっして悪い気はしません。
スモールギフトは、チョコのような「モノ」でなくてもかまいません。相手がこれまでに行ってきた仕事や、持っているスキルに対して「すごいですね。尊敬します」などと賞賛の言葉をおこってあげる。
これも立派なギフトとなります。
たとえ相手がクレーマーのような人物であったとしても、たとえば「そのようなことにお気づきになったのは、お客様が初めてです。すばらしいですね」と伝えることで、「おう、よく俺のことがわかっているじゃないか」とラポールを築くことができるようになるのです。
3つ目の方法として、年齢、血液型、兄弟構成、居住地、出身地、出身校、地位、病気、ペット……なんでもいいので相手と似た境遇にあることを発見して、それを会話の糸口とするやり方があります。
これは営業マンの基本というか、常套手段ですが、バカバカしいように見えて意外と効果があるのです。
「出身地の話なんて前近代的でイヤだな……」と思う方もいるかもしれませんが、互いに共通するバックボーンを持っている人間同士は心理的なハードルが下がる、というのは学術的にも証明されています。
効果があれば、前近代的でもなんでもいいのです。
知り合いのトップ営業マンは、47都道府県すべての名産品と甲子園常連校の名前を覚えていて、客との会話に多用していました。
「あっ、富山県ご出身なんですね。富山といえば、このあいだ雑誌でブラックラーメンというものがあるのを知って、どういう味なんだろうとすごく気になっていたところでした。寒ブリも白えびも美味しいし、すごく良いところですよね」
たとえばこんな感じです。
すごい努力だと思いましたが、慣れれば自然とできるようになると言っていました。ぜひみなさんにもお勧めしたいと思います。