第1095冊目  小泉進次郎の話す力 [単行本(ソフトカバー)]佐藤綾子 (著)

小泉進次郎の話す力

小泉進次郎の話す力


口角拳筋だけで「聞いていますよ」を表現する天才


この数年間に、私がテレビ番組のために0.1秒単位の「ASコーディングシート」を使って分析した日本の首相のなかで、ほかの議員の発言や質問を聞いている時の表情が一番良かったのは小泉純一郎氏です。


実際に国会討論などで、発言をしているない聞き手状態にある小泉純一郎氏にカメラが回ってくる時、彼の表情筋は必ず口角拳筋だけを小さく上げていました。ちょうどボートのなだらかな船底をつくったような形、つまりよくあるスマイルマークのようなリップラインをしていました。これは「聞いていますよ」のサインになります。


相手が反対意見をまくし立てている時でも、口角拳筋に少しだけ力を入れて上げているので、結果は微笑しているのと同じ表情になります。


それを見て話し手は、小泉氏が聞いていると思って満足感を持つわけです。さらにテレビをその顔を見ている視聴者は、「あんなひどいことを言われても微笑んでいるのだから、きっと自信があるのだろう」というふうに解釈したわけです。


他のどの政治家よりも優れた最大の表情筋の特徴です。人の上に立つ人の話の聞き方はこうでなければなりません。そのようにしておとなしく聞いていて、最後にガッと噛みついてくるのですから、敵に回したらこれほど嫌な聞き手はないとも言えます。


例えば最も印象に残っているのは、抵抗勢力とは何だと聞かれて、「私の政策を批判する者はすべて抵抗勢力」と答えたのですが、こと時でさえ、彼はにこやかに相手の質問を聞いていました。


さらには、二〇〇四年六月三日党首討論で、年金問題で質問された時もまったく同じです。口もとを少し緩めてにこやかな表情で聞いていて、そのあげくに「人生いろいろ、会社もいろいろ」と答えたのですから、質問した岡田氏のほうは拍子抜けしてしまって、やってやれないと思ったことでしょう。