第905冊目  小泉進次郎の話す力 [単行本(ソフトカバー)]佐藤綾子 (著)

小泉進次郎の話す力

小泉進次郎の話す力

野次と拍手には十分なマをおく

新人議員であればあるほど、自分の書いてきたセリフを言わなければという思いに取りつかれて、何か言ってたまたま相手から予想外の拍手が出てきた時でも、その拍手の音にかぶせて自分の言葉を言いがちです。

これは演説においては「ノイズ」と呼ばれています。演説やスピーチの目的を妨げるマイナスの要素です。たとえ拍手であっても、そこに続けて話してしまえば、野次がごうごう飛ぶなかで演説したのと同じように、スピーカーの言葉の相手の耳に届きません。

この拍手のマを読む冷静なテクニックをこの若者をすでに身につけているのです。

二〇一〇年五月一三日の衆議院本会議で田中慶秋・内閣委員長の解任を迫った時も、途中でたくさんの野次や拍手が出ました。彼はそれにかぶせては発言しません。首を振って、「よく聞いていますよ」と言わんばかりにちょっと口角を緩めてマを置きます。

そして野次や拍手が下火になった瞬間を見計らって、次のセリフを言っていくのです。

実は、この時の口の周りの筋肉の総称「口輪筋」を少し緩めて黙って待つ表情のつくり方が、父・純一郎氏とまったくそっくりです。この口角の緩みがまるで微笑みのように見えて、テレビの視聴者には「余裕」を感じさせます。

私が三〇年間のわたるパフォーマンス学の研究データでは、聞きやすい日本人の平均的な話の速度は一分間に二百六十六文字です。

そのことをよく頭に入れることは演説でも社長訓話でも必要ですが、では、と文字通りその文字数と時間を合わせて原稿をフルに書いてしまうと、あいだで拍手や野次が起こった時に、言うべきポイントを言わずに時間切れになったりします。

テレビ中継などされていると最悪で、一番言いたいことを言っているところがテレビの画面から取り残されたり、途中の拍手や野次の時間を計算しておかなかったために、言うべきポイントが集中して出てくる後半になって壮絶な速さで話さなければならなくなったり、ゆっくりとレペティションをかけて何度も強調する見せ場を失うことになってしまいます。

拍手や問いかけ、あるいは質問文体で語ったあと、相手がそこでほんの少し答えを探り出す時間、このような意識的な空白の時間、マを演説のなかにきちんと組み込んでおく必要があります。進次郎氏はそのことにおいても名人芸を発揮しているのです。