第358冊目 「わたしと仕事、どっちが大事?」はなぜ間違いか 弁護士が教える論理的な話し方の技術

谷原誠/著  


太郎「ちょっと友人の家に遊びにいってくるね」
親 「待ちなさない。宿題はやったのか?」
太郎「うるさいなあ。大丈夫だよ。後でちゃんとやるって!」
親 「お前の夢は医者になることじゃないのか。今、宿題をきちんとやって、いい大学に入って医者になるのと、宿題もやらずに遊びまわってフリーターになってしまうのと、どっちがいい?」
太郎「そりゃあ、医者になるほうがいいに決まっているけど……」
親 「じゃあ、宿題をやりなさい」
太郎「ちぇっ!!」


親は子に二者択一を迫っていますが、これは、前提が謝った二者択一、すなわち「二者択一誤導尋問」になっています。


人間は、「AとBのどちらを選ぶのか」と聞かれると、通常、どちらかを選ばなければならないような気持ちになります。その心理を利用して、謝った選択肢を設定し、そのうち一方しか選べなくしてしまうのが、この「二者択一誤導尋問」のテクニックです。


親が太郎君に提示した二者択一は、次のようなものです。


「今、宿題をきちんとやって、いい大学に入って医者になるのと、宿題もやらずに遊びまわってフリーターになってしまうのと、どっちがいい?」

これは次のような構造を持っています。


宿題をやる→いい大学に入る→医者になる
宿題をやらない→フリーターになる


最終段階で医者かフリーターかを選ばせるわけですが、それを選ぶと、必然的に宿題をやるかやらないかが決まってしまいます。このように見ると、論理に欠陥があるのは明らかですが、二者択一になってしまっているがゆえに誤導が見抜けなくなっているのです。


この場合の反論の仕方としては、誤導であることを指摘する方法や、第三の道を提示する方法などがあります。


「その質問はおかしいよ。今宿題をやることと医者になることとの間には、論理的な整合性がない。それに、今宿題をやらないからといってフリーターになるのとは限らないよ」


「僕はあえて第三の道を選ぶよ。今宿題をやらなくても医者になれくということを見せてあげるよ。期待しててね」

第1章 あなたに必要な“論理力”という武器(人間は非論理的思考にダマされる!?
人は誰もが論理的であろうとする ほか)
第2章 論理的に考え、話すための“第一歩”(三段論法―「A→B、B→C、ゆえにA→C」
そもそも式論法―「ルール→事実→結論」 ほか)
第3章 相手のペースに巻き込まれない会話術(相手の価値観に反論する
他の事例に飛び火させる ほか)
第4章 論理の落とし穴を見破るテクニック(非論理的な論理に正しく反論せよ
誤導尋問―「お支払いは現金ですか、それともカードになさいますか」 ほか)
第5章 論理的な思考力をみがく質問術(言質を引き出すソクラテスの質問術
相手が警戒する前に言質を引き出す ほか)