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第3674冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか
-リーダーとしての行動を自己チェック
善は急げだ。現状を正しく理解するための行動を開始しよう。リーダーとして働くあなたの目がどれくらい現場に行き届いているといるのか、自己チェックにチャレンジしよう。
方法は簡単だ。私が独自に作成した現場への目配り充実度チェックリストに目を通し、自信をもって「はい」といえない場合は×を入れる。「どっちかな」と少しでも迷った項目は×と、厳しい視点でチェックする。
×がついた項目については、優先順位をつけ、順番に○になるよう行動を起こす。
例えば、「⑥現場にはどのような強みがあるか、理解している」が×の場合は、現場を訪ね、強み探しに従事する。「どこが強みといえる部分か」「どこがすごいといえる部分か」「どこが素晴らしいといえる部分か」と呟きながら、現場を歩き回るだけでもよい。強い意識をもって見回ると、今まで気づかなかった強みに気づける可能性は決して低くない。
強み探しの手段としては、現場職員とのコミュニケーションもおすすめだ。効果的なのは、日常的な手順や方法をあらためて教えてもらうという方法だ。「この業務はこのように行っています」「こういった手順や方法で介護業務を行っています」などといった、何気ない説明のなかに、強みが潜んでいるケースがある。強みはその部署にずっといるからといって、理解しているとは限らない。気づいていないケースが少なくない。これらのアプローチを通して、確認できた強みは、今後も保持できるよう、あるいは、さらなるバージョンアップを図るよう現場に働きかけていく。
「⑦現場にどのような課題、問題、改善すべき点、ウィークポイントがあるか、理解している」が×の場合も、現場を訪ね、課題、問題、改善すべき点の把握に向けた取り組みにかかる。
確認できた場合は、解決策を作成し、改善に向けた行動に着手する。もちろん、これらの一連の取り組みを単独で実施する必要はない。現場職員と共同作業で取り組めばよい。職員の視点からすれば、上司・先輩と、業務改善に一致協力して取り組んだという経験が、「仲間意識」の醸成につながる。支え合う人間関係構築の土台となる。
○がついた項目も、その内容によっては、行動を起こす必要がある場合があるので、要注意だ。
例えば、「④日常業務がどのような共通認識に基づいて実施されているのか理解している」に○がつくケース。この設問で○がつくケースは二つある。
一つ目は、「共通認識がしっかりとある」ケース。しかも、その結果、レベルが高い業務がこなせているケース。
二つ目は、「共通認識はしっかりある」が、業務レベルは不十分な状態にあるケース。この場合は、共通認識になっている業務の手順や方法に大きな問題があるという事実を意味しているので、可及的速やかに業務手順の見直し、修正に取りかかることが必要になる。
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第3673冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか
-現場の業務実践がより高いレベルで行われる前提
管理監督者の立場にあるリーダー職員の場合、真の現場主義に向けた取り組みは、実際に現場を訪ね、現場への目配り、気配り、心配りを行動として示すことから始める。現場に、どのような課題、問題、改善すべき点があるかを学ぶ。確認した課題、問題、改善すべき点については、適切な解決策を講じ、改善を図っていく。現場での業務実践がより高いレベルで行われるようサポートしていく。そうした取り組みに積極果敢に着手していくことが、リーダーシップを発揮する立場にある職員には求められる。
だからこそ、ここで、本書を手にするあなたに聞いてみたい。
「リーダーとして働くあなたの目は現場に届いていると、自信をもって断言できますか」
そして、あなたがリーダーとして働くチーム、部署、事務所で働く部下・後輩から、
「はい、リーダー(上司)の目はしっかりと現場に行き届いています」
「目が行き届いているので安心して働けます」
「見られているという実感があるので適度な緊張感をもって働けます」
と言ってもらえるような状況にあるだろうか。
もし、少しでも答えに窮したら、今すぐに行動を起こさなければならない。
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第3672冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか
-日々の業務実践から学ぶ謙虚な姿勢
リーダー職員が実現を目指すのは、「現場で行われていることはすべて正しい」と安易にみなす現場至上主義ではない。業務レベルの向上、利用者本位サービスの実現、権利擁護の着実な推進に寄与できる本当の現場主義だ。
本来、現場主義とは、「利用者の最善の利益を最優先するという観点から、現場で行われている様々な業務を冷静沈着に分析、検証し、問題や課題がないか、確認する一連の行為」を指す。簡潔にいえば、日々の業務実践から教訓を学ぶ謙虚な姿勢をもち続けることを指すのである。
日々の業務をやり放しにせず、徹底的に利用者の立場にたって、本当にあのような手順や方法での支援でよかったのか、振り返り点検する。利用者に対して提供される直接支援・介護・相談支援・保育・療育はいうまでもなく、その他の間接業務もすべての振り返りの対象だ。ケース記録、業務日誌、個別支援記録の書き方、ケアプラン、個別サービス計画の作り方など、すべての業務を振り返り点検し、課題や問題を明らかにする。課題や問題については、改善に向けた計画を立案し、実行に移していく。これらの一連の取り組みを着実にやり遂げていくことを現場主義というのだ。
ポイントになるのは、次に示す四つの点で「学ぶ」姿勢を貫くことだ。
①利用者・家族に学ぶ。
②日々の業務実践に学ぶ。
③うまくいった成功体験に学ぶ。
④うまくいかなかった失敗体験に学ぶ。
これらの四つの点について、常に学ぶ姿勢をもち続け、自己成長を図っていく。現場主義をモットーに掲げ、職業人としての経験を着実に積み上げている人は、日々、「学ぶ」姿勢を実践している。現場で経験年数を積み重ねるだけで、漫然と定型業務を繰り返すだけの業務スタイルは、決して現場主義とはいえない。
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第3671冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか
-油断すると職場は現場至上主義の罠に陥ってしまう
こうした状態が放置されると、職場全体が、現場至上主義の罠に陥っていく。最前線で働く自分たちだけが現場を知っている。上司は現場のことを知らないし、わかろうとしない。現場の現状を知っている自分たちの判断で現場をどう運営するか、決めてよい。どんな手段や方法で業務を行うのか、決めてよい。どんな方法で介護をするのか、決めてよい。そんな考えが同じ立場で働く仲間のなかで共有されていく。
こうした姿勢の一番恐いところは、自分たちが行うことは「正しい!」「「これでいいんだ!」」という集団心理が働くことだ。本当にこれでよいのか、問題はないか、という意義は、ほぼゼロの状態になり、自分たちの見立てや論理だけで物事を判断するようになる。こうなると、業務の劣化現象に歯止めがかけられなくなる。いつ深刻な苦情が利用者や家族から申し立てられてもおかしくない状況に成り果ててしまう。最悪のケースでは、いつ虐待通報が関係機関に寄せられても不思議ではないといった状況までサービスレベルの劣化が進んでしまうこともある。
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第3670冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか
-業務レベルが高い職場と低い職場の違い
高品質なサービスを提供している福祉事務所には、管理監督者あるいは指導的立場にあるリーダー職員の目が現場の隅々まで行き届いているという特徴がある。現場の最前線で、利用者を直接支援する職員が、「いつでも必要なときに支えてもらえる」「安心して働けるよういつも配置してもらっている」といった思いを実感しながら働いているという特徴がある。
業務レベルが低迷状態にある福祉事務所は対照的な特徴を示す。管理監督者や指導的立場にある職員の目が現場に行き届いていない。何が今、起こっているのか、どのようなことがうまくいっていないのか、提供されるサービスに関して、利用者や家族はどの部分について高い評価を与えているのか、どの点について不満足であるとの評価をしているか、把握していない。利用者本位サービスや権利擁護という観点から、サービスの実態をみたとき、どの点が高く評価できるか、どの点が不十分なレベルにあるか、把握できていない。
リーダー職員の目が現場に届いていないので、利用者に最も身近なところでサポートに携わる職員の気持ちに緩みが生じてくる。「いつも自分たちは見られている」といった緊張感に欠けるため、ただ何となくいつもの業務を繰り返すという姿勢に陥りやすくなる。問題意識が希薄となり、冷静に自分たちが行っている業務を見つめ直すという姿勢を示さなくなる。修正すべき点がたくさんあるのに、「まぁ、いいか」とスルーしていしまい、問題視しなくなる。
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第3669冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか
④何があったのか、事実関係の把握を最優先する。「いつ」「どこで」「どのような状況で」「何があったのか」「その出来事に対し、当該職員はどのような行動をとったのか」「行動の結果、どうなったのか」といった点の把握に努める。
⑤何があったのか、事実(出来事の経緯)を把握した後に、その事実をどうとらえているか、当該職員の思いを確認する。
⑥振り返った結果、反省の弁を表明した場合は、非を認めたことに関して感謝とねぎらいの言葉をかえる。
⑦そのうえで、同じような失敗(不適切な対応)を繰り返さないようにするために、今後どうするのか、本人の見解を確認する。
⑧本人が実効性の高い再発防止策を示した場合は、ねぎらったうえで、防止策に沿った行動をするようアドバイスする。不十分なところがある場合は、どうすれば、不適切な行為を払拭することにつながるか、リーダーとしての見解を伝える。
これらのポイントを踏まえた面談の例を紹介する。人を正しい方向に導き育てることができる、注意上手なリーダーになるために、ぜひ参考にしてほしい。
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第3668冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか
-注意上手なリーダーになるために留意すべきポイント
①注意すべき事態が発生した場合は、なるべく早い機会に当該職員と向き合い面談する機会をもつ。
不適切な言動が示された場合は、可能な限り、早い機会に、話をするように努める。
時間が経つほど、介入の効果は薄れてしまう。本人の記憶も薄れてしまうので、「何があったか」尋ねても、明確かつ具体性のある答えが返ってこない公算が大きくなる。事実関係の把握が不十分だと、的を射た形でも注意をすることは困難になる。時間が経ってからの注意の場合は、相手から「なぜ今頃そんなことを言うのか!」と反発され、素直に指摘を受けてもらえなくなる可能性が高くなる。
②部下・後輩と向き合うには、すべての過程で穏やかな口調を心がける。
部下・後輩と向きあう際、強い口調で接するのは厳禁だ。部下・後輩は強い口調での対応を受けると、たとえ、内心では自分の行為に非があることがわかっていたとしても、自身の行為を冷静に振り返ることができなくなる。自分が業務のなかでどのような行為をしたかよりも、リーダー職員から強い口調で責められたという印象しか、残らなくなってしまう。
もし、勢い余って、「何度言ったらわかるんだよ。わからないんだったら、もう辞めてしまうえ」などといった発言をしたら、もうその時点でアウトだ。相手は心を閉ざし、事実を認めようとしなくなるだけでなく、後のパワーハラスメントで訴えられるケースもある。事実、管理監督職員が感情的になって部下・後輩を注意し、パワーハラスメントで訴えられたケースは、今の時代、枚挙に暇がない。
上司・先輩が行う部下・後輩への注意は相手の人格を傷つけたり、相手の人間性を否定したりするために行うのではない。利用者にとっても職場にとっても、大切な存在であってもらうために行うのである。利用者本位サービスと金利擁護を推進する、すばらしい有意の職員として、これからも利用者と職場を支え続けてもらうために行うのである。
頭ごなしに叱り飛ばすような態度を示すと、その重要なメッセージが伝わらなくなる。人は責められれば、自己防衛・自己防御のスイッチが入る。自分が業務中に何をしたか、自分が利用者に何をしたか、といった点よりも、今、自分がリーダー職員(上司や先輩)に責められた、否定された、ぞんざいな扱いを受けたという印象しか残らなくなる。
だからこそ、リーダー職員は、部下・後輩を注意しなければならないときは、感情をコントロールしながら、冷静かつ品格ある態度で、向き合うようにしなければならない。