第3984冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか 久田 則夫 (著)

 

 

 

 

何となく取っつきにくさを感じてしまう就職したての年上の部下

 

リーダーの立場にある職員が、年上の部下に苦手意識を感じてしまう原因は多種多様。が、もし苦手意識を感じるのが、入社したばかりの年上職員、あるいは経験年数が二、三年程度の年上職員である場合、リーダー職員の準備不足が最も大きな原因の一つであると指摘しなければならない。

 

福祉の職場で働き始める人の年齢層は幅広い。新卒で就職してくる若者たちもいれば、他の業界で社会人経験を経て、三〇代あるいは四〇代で福祉の業界に飛び込んでくる人もいる。さらに上の五〇代あるいはそれ以上の年代の人が新卒職員として働き始めるケースもある。もはや、どんな年代の人が福祉の職場で働き始めても驚かない。そんな時代になった。

 

こうした時代になっているからこそ、リーダー職員は新卒職員育成に関して準備万端でなければならない。準備が不十分で、接し方を間違えると、“困った事態”が発生する。信頼関係が築けない。「なぜ、こんな若造の言うことを聞かなきゃいけないんだ」と反発姿勢を示されることもある。新卒職員を指導できない状態が続くと、他の職員からもリスペクトされなくなる。リーダーとしての自信は急低下。年上の部下をうまく育てられなかったという経験がトラウマとなり、それ以降、年上の職員が入社してくる度に、心穏やかではなくなる。新卒職員から信頼が得られないという事態が繰り返され、気がつくと、誰からもリスペクトされない最悪の状態に陥る場合もある。

 

こうした事態を避けるためには、年上の部下との接し方に関して、基本原則を学ぶしかない。次に示すポイントをしっかりと目を通し、年上の部下とよい関係を作るリーダーとなるための準備に取りかかろう。

 

相手の年齢と人生経験をプラスの眼差しでみる。

相手の年齢をリスペクトしている、人生経験をプラスの眼差しでみているということが、相手に伝わるような態度、姿勢、言葉遣いで接する。

業務レベルの高さをさりげなく示し、なぜ年上の自分がリーダーであるか、その理由がわかるようにする。

 

これらの基本原則のなかで、最も重要なのは、年上の部下に対するリスペクトの気持ちだ。少しでもマイナスの視点で相手をみると、それは高い確率で相手に伝わる。マイナスの視点は、“伝導性”が高いとう特性があるからだ。もしマイナスの視点が伝わったら

どうなるか、信頼関係は未来永劫築けない状況になってしまう。

 

なぜ、私がこの点を声高に強調するのか。理由は、年齢を積み重ねた職員を軽んじる発言を福祉の職場で漏れ聞くケースがあるからだ。例えば、ある福祉事業所を訪ねたとき、若手職員が次のような話をしているのを漏れ聞くことがあった。

 

「あのおっさん、いい年して、こんなこともできなくて困るよね。何であんな人雇ったんだろ」。

 

こうした声をあげる職員はその職場のなかで特異な存在ではなかった。しかも、リーダーの立場にある職員も、日頃から、年輩の新卒職員に対して敬意に欠ける発言を繰り返していた。実は、若手職員や他の職員が平気で年輩職員を「おっさん」呼ばわりし、軽視する発言を繰り返していたのは、リーダーが悪い手本を示していたからである。

 

リーダーがこうした状況を生み出すことは決して許されない。リーダーに求められるのは誰に対してもリスペクトを示す姿勢だ。常に、この姿勢を貫き通さなければならない。