第3977冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか 久田 則夫 (著)

 

 

 

 

どんなに経験を積んでも利用者に学ぶ謙虚な姿勢をもち続ける人

 

福祉の仕事に携わる人にとって、最も恐いのは、驕りの罠に陥ることだ。「利用者のことは何でもわかっている」「私と利用者との間には完璧な信頼関係ができている」という思い込みや自信過剰の状態に陥ってしまうことだ。驕りや自信過剰は、重大な結果を職場にもたらしやすい。福祉の職場で働く人を、極めて不適切な接遇姿勢、プロと呼ぶには値しない介護・支援・保育・療育・権利侵害あるいは虐待と指摘されかねない言動に陥らせてしまうことがある。

 

なぜそうなるのか。「わかっている」「完璧な信頼関係ができている」といった思いは、危機意識を失わせるからだ。素人が見ても「そんな接遇は不適切だろう」「そんな態度で接するのは不謹慎だろう」といった態度を示しているのに問題だと思わなくなる。

 

例えば、認知症の高齢者に対して、「〇〇ちゃん、ご飯の時間だよ。こっちにおいで」と子どもに相対するかのような接し方をする。自分の思い通りに動いてくれないと、「そうじゃないよ。ダメでしょ」と子どもを叱るような対応をする。正しくない接し方をしているに、「人間関係ができているから問題ない」と、自分の行為を正当化する心理状態に陥ってしまう。

 

福祉の実践現場で働く職員が、こうした罠に陥るケースは決して稀ではない。福祉職員を対象として研修会の場で、先の例にあげたような言動を自分自身が示したことがある。あるいは、同僚が示している場面を見た経験がある、という話を耳にすることは枚挙に暇がない。

 

もしあなたがリーダーを務める職場がこうした状況にあるとすれば、即座に行動を起こさなければならない。リスペクトに欠けた行為は一切許されないということを共通認識として職場に定着させなければならない。

 

同時に、職員間で徹底しなければいけないのは、どんなに経験を積み重ねても、常に「利用者に学ぶ」という姿勢の共有だ。介護や支援の場面で、本当はこうしてほしいと思っているのか、常に学ばせていただくとい姿勢をもって接するようにする。利用者とより強固な信頼関係を築くためには、どうすればよいか、日々の関わりから学ばせていただくという姿勢を堅持する。

 

そのための取り組みとしては、日々、職員が残す記録のなかに、利用者に関して、「今日の気づきや」「今日の学び」を書くように伝えるのも有効だ。具体的には「今日の利用者への支援を通して、どのようなことに気づき、何を学んだか、書くようにしてください」と指示を出す。

 

利用者に学ぶという意欲と姿勢は、ちょっと油断すると、薄れてしまう。利用者理解の終わりはない。だから、常に学び続けるという姿勢をもち続けることが、プロとして必要なことだということをリーダー職員は伝え続けなければならない。