第3981冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか 久田 則夫 (著)

 

誰に対してもプラスの視点でみられる人

 

利用者に対してプラスの眼差しを向ける。これは福祉の職場で働くすべての人に求められる基本原則である。マイナスの視点でみるという誤った習慣がつけば、相手を軽んじるような言動に陥るケースがあるためだ。

 

例えば、認知症の利用者が何度も同じことを介護職員に繰り返し聞いてくるとする。もし介護職員が「どうして同じことを何度も聞くの!」と語気を荒げる対応を示すとすれば、間違いなくその職員はマイナスの視点えみるという罠に陥っている。利用者は職員を困らせようと思って、何度も同じことを聞いてくるのではない。わからないことがあって、困っているためだ。認知症の利用者の立場からいれば、さっき聞いたことを忘すれている。1回1回が本人にとっては“初めて”の行動なのだ。高齢者福祉の世界で専門職として働いているのであれば、この点を踏まえたうえでの対応を本来すべきである。それができなくなっているのは、無意識のうちに、「何度も同じことを聞いてきて、困る!」という思いを抱いているからだ。いつの間にかマイナスの視点でみるという罠に陥っているためである。

 

プラスの眼差しは、ともに働く同僚、後輩、部下、先輩、上司に対しても必要だ。マイナスの視点でみると、相手の言動を、「相手が間違っている」「相手が悪い」と決めつける姿勢に陥りやすくなる。相手に対するマイナスの思いは、伝導性が高く、すぐに相手に伝わってしまう。相手も心穏やかではなくなる。信頼関係の低下、人間関係の悪化につながる。チームワークが機能しなくなる。

 

これらの問題の解決を図るには人と人との信頼関係構築に向けた大原則に立ち返るしかない。他者をプラスかつポジティブな視点でみるという原則である。実際にこの見方を習得してもらうための取り組みとしては、マイナスにみえる行動をプラスに翻訳して理解するという方法がある。「不快だな」「何となく嫌だな」とマイナスの視点でとらえた相手の行為を、プラスの眼差しで翻訳する。そのうえで、アプローチの仕方を見直していく方法である。

 

例えば、A職員の仕事ぶりを、常々「遅くて困る」というマイナスの視点でみていたとしよう。この見方を翻訳に取りかかる。「仕事にゆっくりじっくり丹念に取り組む」とプラスの視点を十分に盛り込んだ形で翻訳する。そのうえで、「なぜそんなに遅いのか」というマイナスの視点に基づく働きかけではなく、「着実に取り組む姿勢で、利用者に喜ばれている。その姿勢を維持できるように、焦らせるような態度は示さない」といったポジティブなアプローチが示せるようになる。

 

続いて、B職員のケース。A職員とは正反対で、「いつも忙しそうに動き回り、落ち着きがない」という見方がされていた。この場合は、プラスの視点でこう翻訳する。

「非常に責任感が強く、少しでも多くの業務を行おうと頑張るタイプ」。そのうえでアプローチをこう変更する。「業務量を他の職員と同じ量まで減らす」「業務の打ち合わせのとき、どの業務をどれくらいの時間でやるか、おおよその目安を示し、業務をこなせるようにする」。こうしたアプローチでB職員に対応すれば、抵抗感なくアドバイスを受け止めてくれるだろう。