第3963冊目 福祉リーダーの強化書: どうすればぶれない上司・先輩になれるか 久田 則夫 (著)

 

 

 

 

-油断すると職場は現場至上主義の罠に陥ってしまう

 

こうした状態が放置されると、職場全体が現場至上主義の罠に陥っていく。最前線で働く自分たちだけが現場を知っている。上司は現場のことを知らないし、わかろうとしない。現場の現状を知っている自分たちの判断で現場をどう運営するか、決めてよい。どんな手順や方法で業務を行うのか、決めてよい。どんな態度で利用者に接するのか、どのような方法で介護をするのか、決めてよい。そんな考えが同じ立場で働く仲間のなかで共有されていく。

 

こうした姿勢の一番怖いところは、自分たちが行うことは「正しい!」「これでいいんだ!」という集団心理が働くことだ。本当にこれでよいのか、問題はないのか、という意識は、ほぼゼロの状態になり、自分たちの見立てや論理だけで物事を判断するようになる。こうなると、業務の劣化現象に歯止めがかけられなくなる。いつ深刻な苦情が利用者や家族から申し立てられてもおかしくない状況に成り果ててしまう。最悪のケースでは、いつ虐待通報が関係機関に寄せられても不思議ではないといった状況にまでサービスレベルの劣化が進んでしまうこともある。

 

日々の業務実践から学ぶ謙虚な姿勢

 

リーダー職員が実現を目指すのは、「現場で行われていることはすべて正しい」と安易にみなす現場至上主義ではない。業務レベルの向上、利用者本位サービスの実現、権利擁護の着実な推進に寄与できる本当の現場主義だ。

 

本来、現場主義とは、「利用者の最善の利益を最優先するという観点から、現場で行われている様々な業務を冷静沈着に分析、検証し、問題や課題はないか、確認する一連の行為」を指す。簡潔にいえば、日々の業務実践から教訓を学ぶ謙虚な姿勢をもち続けることを指すのである。

 

日々の業務をやりっ放しにせず、徹底的に利用者の立場にたって、本当にあのような手順や方法での支援でよかったのか、振り返り点検する。利用者に対して提供される直接支援・介護・相談援助・保育・療育はいうまでもなく、その他の間接業務もすべて振り返りの対象だ。ケース記録、業務日誌、個別支援記録の書き方、ケアプラン、個別サービス計画の作り方など、すべての業務を振り返り点検し、課題や問題を明らかにする。課題や問題については、改善に向けた計画を立案し、実行に通していく。これらの一連の取り組みを着実にやり遂げていくことを現場主義というのだ

 

ポイントになるのは、次に示す四つの点で「学ぶ」姿勢を貫くことだ。

 

①利用者・家族に学ぶ。

②日々の業務実践に学ぶ。

③うまくいった成功体験に学ぶ。

④うまくいかなかった失敗体験に学ぶ。

 

これらの四つの点について、常に学ぶ姿勢をもち続け、自己成長を図っていく。現場主義をモットーに掲げ、職業人としての経験を着実に積み上げている人は、日々、「学ぶ」姿勢を実践している。現場で経験年数を積み重ねているだけで、漫然と定型業務を繰り返すだけの業務スタイルは、決して現場主義とはいえない。