第3355冊目 プロフェッショナルの条件――いかに成果をあげ、成長するか P・F. ドラッカー (著), Peter F. Drucker (原著), 上田 惇生 (翻訳)


  • 神々が見ている――フェイディアスの教訓

ちょどそのころ、まさにその完全とは何かを教えてくれる一つの物語を読んだ。ギリシャの彫刻家フェイディアスの話だった。紀元前四四〇年ころ、彼はアテネのパルテノンの屋根に建つ彫像群を完成させた。それらは今日でも西洋最高の彫刻とされている。だが彫像の完成後、フェイディアスの請求書に対し、アテネの会計管は支払いを拒んだ。「彫刻の背中は見えない。誰にも見えない部分まで彫って、請求してくるとは何ごとか」と言った。それに対して、フェイディアスは次のように答えた。「そんなことはない。神々が見ている」。この話を読んだのは、ちょど「ファルスタッフ」を聴いたあとだった。ここでも心を打たれた。


今日にいたるも、私は到底そんな域には達していない。むしろ、神々に気づかれたくないことをたくさんしてきた。しかし私は、神々しか見ていなくとも、完全を求めていかなければならないということを、そのとき以来、肝に銘じている。


「あなたの本の中で最高のものはどれか」とよく聞かれる。そのときには、次の作品ですと本気で言っている。ヴェルディが八〇歳のときに、それまでずっと取り逃がしてきた完全を追及して、新しいオペラを書いたときの言葉通りのことを意味しているつもりである。すでに私は、ヴェルディが「ファルスタッフ」を書いた歳を越えた。しかしちょど今、二冊の本を構想し、実際に書き始めている。その二冊とも、これまでのどの本よりも優れたもの、重要なもの、完全に近いものにしたいと思っている。