第3356冊目 プロフェッショナルの条件――いかに成果をあげ、成長するか P・F. ドラッカー (著), Peter F. Drucker (原著), 上田 惇生 (翻訳)


  • 一つのことに集中する――記者時代の決心


その後、私はフランクフルトに移った。初めは証券会社の見習いとして働いていたが、一九二九年一〇月、ニューヨーク株式市場が大暴落したため、会社がつぶれた。


その直後、ちょど二〇歳の誕生日に、私はフランクフルト最大の新聞社に金融と外交を担当する記者として勤め始めた。大学のほうも、フランクフルト大学の法学部に籍を移した。当時は、誰でも簡単に大学を移れた。とはいえ、相変わらず、法律にはあまり関心がなかった。


しかし、ヴェルディとフェイディアスの教訓だけは身につけていた。記者は、いろいろなことを書かなくてはならない。そこで私は、少なくとも、有能な記者として知らなければならないことは、すべて知ろうと決心した。


新聞は夕刊だった。朝の六時に働き始め、最終版が印刷にまわされる午後の二時一五分に終わった。そこで私は、午後の残りの時間と夜を使って、何が何でも勉強することにした。国際関係や国際法、諸々の制度や機関、歴史、金融などについてだった。


やがて私は、一時に一つのことに集中して勉強するという自分なりの方法を身につけた。今でもこの方法を守っている。次々に新しいテーマを決める。統計学であり、中世史であったり、日本がであったり、経済学であったりする。もちろんそれらのテーマを完全に自分のものにすることはできない。しかし、理解することはできるようになる。すでに六〇年以上にわたって、一時に一つのテーマを勉強するという方法を続けてきた。この方法でいろいろな知識を仕入れただけではない。新しい体系やアプローチ、あるいは手法を受け入れることができるようになった。勉強したテーマのそれぞれに、それぞれ別の前提や仮説があり、別の方法論があった。