第3353冊目 プロフェッショナルの条件――いかに成果をあげ、成長するか P・F. ドラッカー (著), Peter F. Drucker (原著), 上田 惇生 (翻訳)



第一の直後の成果については、はっきり誰にでも分かる。企業においては、売上げや利益など経営上の業績である。病院においては、患者の治療率である。もちろん、直接的な成果といっても、誰にでも明白なものばかりとは限らない。だが、直接的な成果が何であるべきかが混乱している状況では、成果は期待しえない。直接的な成果は常に重要である。組織を生かすうえで、栄養におけるカロリーと同じ役割を果たす。


しかし組織には、人体におけるビタミンやミネラルと同じように、第二の領域として価値への取り組みが必要である。組織は常に目的をもたなければなららい。さもなければ、混乱し、麻痺し、破壊される。


価値に対する取り組みは、技術面でリーダーシップを獲得することである場合もあるし、シアーズ・ローバックのように、アメリカの一般家庭のために、もっとも安く、もっとも品質のよい財やサービスを見つけ出すことである場合もある。もちろん価値への取り組みもまた、成果と同じように明白とは限らない。


貢献に焦点を合わせるということは、人材を育成するということである。人は、課された要求水準に適応する。貢献に照準を当てる人は、ともに働くすべての人間の視点と水準を高める。


新任の病院長が最初の会議を開いたときに、あるむずかしい問題について全員が満足できる答えがまとまったように見えた。そのときひとりの出席者が、「この答えに、ブライアン看護婦は満足するだろうか」と発言した。再び議論が始まり、やがて、はるかに野心的な、まったく新しい解決策ができた。


その病院長は、ブライアン看護婦が古参看護師のひとりであることを後で知った。特に優れた看護婦でもなく、婦長を務めたこともなかった。だが彼女は、担当病棟で何か新しいことが決まりそうになると、「それは患者にとっていちばんよいことでしょうか」と必ず聞くことで有名だった。事実、ブライアン看護婦の病棟の患者は回復が早かった。こうして病院全体に、「ブライアン看護婦の原則」なるものができあがっていた。病院の誰もが、「患者にとって最善か」を常に考えるようになっていた。


今日では、ブライアン看護婦が引退して一〇年がたつ。しかし彼女が設定した水準は、彼女よりも教育や地位が上の人たちに対し、今も高い要求を課している。


貢献い焦点を合わせるということは、責任をもって成果をあげるということである。貢献に焦点を合わせることなくしては、やがて自らをごまかし、組織を壊し、ともに働く人たちを欺くことになる。


事実、もっともよく見られる人事の失敗は、新たに任命された者が、新しい地位の要求に応えて自ら変化していくことができないことに起因している。それまで成功してきたのと同じ貢献を続けていたのでは、失敗する運命にある。貢献すべき成果そのものが変化するだけでなく、前述した三つの領域の間の相対的な重要度さえ変化するからである。このことを理解せずに、以前の仕事では正しかった仕事の仕方をそのまま続けるならば、新しい仕事では、間違った仕事を間違った方法で行うことになる。