第3336冊目 「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)  ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


第一は、時間の経過とともに注意力が低下するということである。多くの人は、最初に受けた印象で判断を下した後は気が緩んでしまい、後から受ける印象に前ほど注意を払わなくなる。たぶんあなたも初対面の人と会うときには、相手の言動に注意を払い、どういう人間かを探ろうとし、相手のタイプを知り、さらい自分と合いそうか、自分に好意的か、はたまた自分の役に立ちそうか見きわめようとするだろう。やがて「dさいたいわかった」と考えると、いちいち気にかけなくなる。次に会うときには、相手のことはおおむねわかった気でいるので、こまかいニュアンスなど聞き流しやすい。


第二は、情報の選択的取捨である。すなわち、第一印象が定まってしまうと、それと一致しない情報を無視しがちになる。とりわけ、「第一印象→相手の評価→結果」が連続的に起こる場合に、そうなりやすい。たとえば面接の際に相手の印象に基づいて採用を決め、その後になってから「こいつを採用したのは失敗だった」と認めるのは、誰しも気が進まない。そこで、第一印象と一致しない情報は無視して、一致する情報は偏重する傾向が生まれる。


第三は、第一印象の実現行動である。すなわち人間は、自分が抱いた第一印象が正しくなるような行動を自らとるのである。採用面接を対象にしたある調査によると、応募者に対する面接官の第一印象は、入社試験の成績や履歴書に基づいて、面接が始まる前にすでに形成されている。いざ面接が始まると、応募者に好意的な印象を抱いている面接官は相手に気遣いを示し、自社のよいところを強調し、職場環境について積極的に情報提供を行い、応募者にあまり意地悪な質問を発しない。こうして、自分が抱いたイメージ通りになるよう審査を行うことが判明した。また別の調査では、相手を優秀だと思っている人は、相手の得意分野に関する質問を発したり、能力を発揮する機会を与えたりする傾向があることがわかった。このように、人はすでに抱いている印象や伝え聞いている評判を強める行動をとりやすい。その結果、当初の印象や評判は結果的に正しくなる。


第四は、偏向的な同化作用である。あるとき劇作家兼コメディアンのチャーリー・バロンは、カリフォルニア医師会からスピーチをしてほしいと依頼された。医師会が期待していたのは、気の利いたコントといった体のものである。ところがバロンは、ホスト側と示し合わせて自分を「医学博士アルビン・アブガー」と紹介させる。そして専門家ばかりの聴衆を相手にでっちあげの統計データを使って、遺伝子に関する珍説を披露したのである。バロンがジョークを飛ばさなかったら、聴衆は彼のことをあやうく遺伝子の専門家だと信じ込むところだった。聴衆にしても途中で「どうもおかしい」とは思ったものの、「いやいや、自分は遺伝子の専門家ではないから」とか「最新の研究ではそういうデータが出ているのだろう」と思い直していたという。もしバロンがコメディアンと紹介されていたら、聴衆の反応はまったくちがったものになったいただろう。