第3309冊目 「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)  ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

  • 上司を気分よくさせる


自分の仕事ぶりについて考えるとき、ぜひとも確認すべき点が一つある。それは、自分の行動や発言、そして仕事の成果は、上司をいい気分にさせているか、とうことだ。いい気分というのは、あなたに満足するという意味ではなく、上司自身が自分に満足しているか、という意味である。あなたがいまの地位を確保し、さらに上へ行く確実な方法は、端的に言って上司をご機嫌にしておくことなのだから。


自分に自信のない人に限らず、ちょっとばかりうぬぼれて気分よくなりたいのは人情である。客観的に見れば人間は失敗から学ぶことの方が多いのだから、誰しも自分はなかなかよくやっている、結構優秀だなと思っていたい。これを自己高揚動機と呼ぶ。こうした動機があるため、たいていの人が肯定的な意見を聞こうし、否定的な意見を煙たがる。しかも多くの人は自分の能力や成果を過大評価し、「自分は平均以上」だと考えている。知性、ユーモアのセンス、運転能力、容姿、交渉能力などについて自己認知の調査をしたところ、回答者の半分以上が「自分は平均以上」だと答えという(そういうことはありえない)。また人間は自己愛が強いので、自分に似た人を好む傾向がある。さまざまな調査でも、人間どうしが惹かれ合う要因として類似性が重要であることが確かめられている。たとえば名字か名前のどちらかが自分と似た人と結婚する確率は、そうではない場合よりも高い。また、被験者にランダムな番号を割り当てた実験では、自分の誕生日と似た番号の人に好意を抱くという結果が出ている。さらに、自分に似た人を好ましく思う傾向から、自分の属する集団(内集団)をひいきし、それ以外(外集団)を差別しがちである。このような傾向を内集団バイアスと呼ぶ。同様に、自分と同じ社会的カテゴリー(人種、出身地、経歴など)に属する人も優遇する傾向がある。


個人批判は、確実に上司を不機嫌にする。とりわけ上司の気分を害することはまちがいない。大手クレジットカード会社で副社長を務めるメリンダは、マネジャーだった頃にこれをやってしまった。当時のメリンダは審査部に属して顧客の購買・支払い予測モデルの作成に携わっており、信用調査担当のオフィサーに昇格することをめざしていた。信用調査チームのチーフとの関係は良好だったら、十分に手応えはあった。ところがある日の会議でチーフ直属の部下が不快な行動をとったことに腹を立て「会議の場であんなふうに怒鳴るなんて、チーフそっくりです」と余計なことを言ってしまう。