第3208冊目その話し方では軽すぎます! 矢野 香 (著)


その話し方では軽すぎます!  エグゼクティブが鍛えている『人前で話す技法』

その話し方では軽すぎます!  エグゼクティブが鍛えている『人前で話す技法』

  • 鏡に映るのはおすまし顔にすぎない


私たちは、自分の素の顔を見ることはできません。鏡で見る自分の顔は、恰好よくあってほしい、綺麗であってほしい、と思いながらチェックするので、自分の中でも最高の顔といえます。いわば、おすましの顔です。


しかし、残念ながら他人が見ているのはこの顔ではありません。ふとしたときに見せる素の顔によって、あなたという人間を測っています。自分の知らない素の顔で判断されているという悲しい現実です。


午後6時からのニュース番組の生放送本番中でした。ライトがこうこうと白く照らされ、暑かったのを覚えています。スタジオの真ん中に置かれたセットの机に、私と男性アナウンサー、そしてディレクターの三人が座っていました。生放送番組の中でも、「リポート」といって、事前にナレーションも入れて完成している映像「VTR」を流す時間があります。時間にしておよそ3分から5分です。


アナウンサーは、その間、次のニュースを確認したり、簡単に打ち合わせをしたりしています。その必要がないときは、アナウンサーもVTRを見ています。


台本ではVTRが終わって、次に画面に映るのは男性アナウンサーの予定でした。私はすっかり気を抜いてしまい、ボーッとスタジオのモニターに映るVTRを見ていたのです。


そのときです。私が見ていたモニターに映ったものは……。姿勢を前に倒し、つまならそうな表情をした緊張感のない自分の顔でした。


何が起こったのか理解できないまま、反射的に姿勢を起こして座りなおし、ニコッと笑ってみせたものの、後の祭り。画面が、本来移る予定であった男性アナウンサーに切り替わったとき、彼はこう言いました。


「失礼いたしました。ただいま映像にお見苦しい点がありましたことをお詫びいたします。それでは次のニュースです」


「映像にお見苦しい点」とは、もちろん私の顔のことです。このとき、はじめて自分の素の顔を見ました。気を抜いた顔があんなにも醜かったなんて……。


事件の原因はカメラのスイッチングミスでした。しかし、いまになった思うと、スタジオに入っている本番中に素の顔を見せた私が悪いのです。緊張感が欠けていた私の甘さです。それ以来、素の顔を他人の前で見せません。


このようなスイッチングミスが、あなたにも起こらないとは限りません。ビジネスシーンでも同じこと。会議の場で話している人、プレゼンをしている人は、話すだけではなく聞き手の反応もちゃんと見ています。人生では、あなたを撮ったカメラは24時間いつでも回り続けているのです。いつ撮られてもよいように、準備しておかなくてはなりません。