第2855冊目 私の財産告白 本多 静六 (著)


人生と財産―私の財産告白

人生と財産―私の財産告白

  • 決して脇道に外れるな


有志家にはだれもなりたがるものである。しかも、有志家的野望といってもだんだんで、町内会の世話役、同業組合の幹部、何々委員会の委員といったところから、小は町内会の議員、大は国会の衆・参議員などまでいろいろな公職がある。自分からなろうと望む場合もあるだろうし、また周囲から推し立てようとする場合もあるだろう。いずれにしても、それを心動かすのは、十中の八九まで権力と名誉へあこがれからである。したがって、私の単なる名誉心や権勢欲にかあられての、この有志家気取りや政治家志望を厳に戒めたいと思うのだ。


平凡人の進むべき道はあくまでも「柄相応」でなくてはならない。


元来、名利は与えられるもので、求むべきものではない。自ら求めて得た名利は、やがてこれを失わざらんことに汲々としなければならず、しかも、それは瓶中の花のごとく、いつかはしおれてしまう。幸福の実は決してなるものではない。それゆえ、われわれはあえて名利のために働くのではなく、仕事が――与えられた職務が――面白くてしょうがないから働くという信条、すなわち、努力が楽しみという境地ですべて押していきたい。そこに、おのずから自地繁栄の道も拓かれ、名と、利と、徳とが一致する人生も生まれてくるのである。