第2842冊目 私の財産告白 本多 静六 (著)


人生と財産―私の財産告白

人生と財産―私の財産告白

  • 仕事の上手な頼み方


人を使うのは、人の名前を、早く、正しく覚え込むことといったことが、これはなんでもないことのようで、きわめて大切なことである。


何か部下のもに仕事を頼むとき、いかにその態度が礼を尽くしていようとも、その名前を間違えて呼ぶようなことがあっては、それこそ、百日の説法屁一つで、「なんだい馬鹿にしてやがる」ということになってしまう。態度がいんぎんを極めれば極めるほど変なことになろう。だから、新しく入ったようなもので、不確かな記憶しかなかったら、そっと次席のものにきいてみるとか、職員名簿をひっくりかえしてみるくらいの用意が必要となってくるのである。また給仕や小使までいちいちその名を覚えていて、「オイ何々君」と親しく呼びかければ、呼びかけられたものの気持ちは満更ではないわけで、取り寄せるように頼んでおいた弁当も、せっかくあたたかいところで運ばれくるというものである。


そこで私は、部下の人々に仕事を頼む場合、それがどんな些細なことでも、いちいち、正しい名前をハッキリ呼んで、いつもねんごろにいいつけるようにしてきた。またその仕事の内容についてもよく吟味して、頼まれたものに、なんだいこんなことといわれないようにつとめてきた。