第2742冊目 ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 G.キングスレイ ウォード (著), G.Kingsley Ward (著), 城山 三郎 (翻訳)


ビジネスマンの父より息子への30通の手紙    新潮文庫

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫

  • 金銭感覚はどうなっているのか


ついでながら、友人をたやすく失う確実な方法のひとつあh、金を貸して欲しいと頼まれて、それに応じることである。これは絶対にいけない。もあし君が親しい友だちの窮乏を知って、援助が必要だと思ったら、自分から申し出るほうがずっといい。君が自分から援助を申し出る友人は、ふつうそれを返済して、友情を裏切らない。君に借金を頼み込む友人は見限るしかないだろう。金を借りたければ銀行へ行けばいい。これは友好関係の質を測る面白い秤ではないか、と君が感じたとしたら、その感覚は正しい。まさにそのとおり、何世紀にもわたって使われている秤である。


君はすでに、金が人を作らないことを理解しただろう。テミストクレスは紀元前五〇〇年の昔に、娘の求婚者が二人現れたとき、裕福な求婚者よりも貧しい求婚者を選んだ。そちらのほうが娘にふさわしいかったからである。実に思慮深い。彼は人物の伴わない財産よりも、財産を持たない人物を選んだのである。


私は全くの無から事業を興して成功させたことに、多少の誇りを感じている。ほんとちょっぴりだから許してほしい。君が私たちの仲間に加わったのは、事業が軌道にのってからなので、君はそれをさらに大きく、立派に育てることに、誇りを感じるだろう。


しかし、君が大物を気取りたくなるのは、君が事業に新生面を切り開いたときであって欲しい。さもなければ私は大ハンマーをとり出して、君のふくらんだ胸を「私はふつうの人間です」という大きさまでに叩きつぶさなければならないだろう。だからといって、二、三の成功を収めたあとで、祝杯をひとつあげることまでも慎め、というつもりはない。ただそれは親しい友だちと静かにするように。そうすれが、事態が逆転したときにも、失敗をこの少数の友人に告げるだけですむ。成功を世間に吹聴しなければ、失敗を知らせる義務もない。


すでに述べたように、財産のある人を羨む人は多い。私は金持ちになったこともあるし、貧乏をしたこともあるので、その気持がある程度わかる。そのうえで君に教えたい。金持ちのほうがいいと。しかし財産があると孤独を感じることが多く、真の友情を保つこと、あるいは正直で忠実な親しい友人を得ることは難しくなる。


金はごく個人的なもので、そのように扱うように。上手に扱えば、人生の喜びは大きくなるだろう。それは世の中を見るための手段。この世の中で作られる多くのすばらしい美しいものを見たり、手に入れたりするための、手段のひとつになる。


賢い人は金持ちになれるが、人は金持ちにあると愚かになる(あるいは妻が愚かになる)ことが多い。君がときどき、だれそれは金を持っていたが、全部失くしてしまった、という話を聞くのはそのためで、たいていは投資に失敗したり、明日のことを考えないで使ってしまったりするのである。