第2672冊目 成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール ダグ・レモフ (著), エリカ・ウールウェイ (著), ケイティ・ェッツイ (著)


成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

  • まちがいを練習の一部にする


私たちの知り合いに、息をのむほどスキーのうまい女性がいる。彼女が興味深い話をしてくれた。転ぼうと決心した日が、達人に大転換した瞬間だったと言うのだ。


彼女は陽の当たる斜面の下でリフトに乗るところだった。曲がりくねったこぶだらけのコースを最高のフォームですべりおえてきたばかりで、すぐうしろをすべってきたティーンエージャーの賞賛の的になっていた。「ゾクゾクした」とか「すごい」ということばの間に、その少年は「転んだことある?」と訊いた。リフトに乗りながら彼女は考えた。(1)まず答えは「ノー」だと言うこと。(2)もしあの少年が自分の甥かいとこで、一人前のスキーヤーに育てたいと思ったいたら、そんな質問はさせたくないということだ。むしろ転んだことがないのは全力を出しきっていないからで、それでは早く上達できないと指摘しただろう。リフトが山の中腹に差しかかるころには、自分がめったに転ばないことに気づいた。8日から10日間スキーをしても1回あるかないかで、それもたいてい真剣にすべっていないときに集中力が切れた瞬間だ。転ばないのは、学ぶために全力を出しきっていないからだと悟った。あまりにうまいので怠けていたのだ。


頂上に着いてからリフトからおりたときには、やるべきことがわかっていた。彼女は転倒するほど激しくすべりはじめた。ただ、どう転ぶか計画したうえで。以前からどんなに急な斜面でも両肩を斜面の下に向けておくことを心がけていたので、たとえ転ぶことになったとしても、このスキルを実行することにした。初日は3回転倒した。「恐れいてたことをまさに実行しようとしているのが自分でわかった。根気よく続ければ、恐怖を克服できる自信があった」。転ぶのを恐れずにすべりはじめると、数週間のうちにまったく別のスキーヤーになっていた。


悟りの瞬間、彼女はふたつの重要な真実に気づいた。まず、転ぶのはふつうのことであり、スキルの欠如を示しているのではないこと。次に、スキルの限界ですべりつづけることによって、さらにうまくなれることだ。自分の弱みを隠すのではなく、さらけ出すことで完璧に近づけるのだと信じる必要があった。そんな私たちの友人と、最高難度の斜面をできるだけ速くすべることだけを考えているスキーヤーを比較してみよう。そのスキーヤーが成功体験を組みこまずにいつか転倒したら、みじめな結果になり、自分のスキルを過信したせいで怪我をする可能性が高いだろう。


向上するために、熟慮したリスクをあえて冒す恐れ知らずのスキーヤーの文化を組織に取り入れ成功につなげたいときにはどうすればいいか? 失敗する率とスキルのレベルは互いに関係ないことを、組織の人々に認識してもらわなければならない。そのうえで、上達のために気兼ねなく同僚に弱みを見せられるような環境を作る。さらに、同僚といっしょに練習することに、信頼や信念、喜びを感じられるように支援する。こうした道のりの第一歩は「まちがいを練習の一部にする」ことだ。