第2665冊目 成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール ダグ・レモフ (著), エリカ・ウールウェイ (著), ケイティ・ェッツイ (著)


成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

  • フィードバックのループを短くする2


ケイティも、ある学校で教員の訓練をしていたときに、迅速なフィードバックの利点を目にした。練習していたのは(いきなり指名)というテクニックで、生徒が手を上げていてもいなくても、教師のほうから発言を求めるものだった。このテクニックは、教室に厳しい雰囲気を作り出すのには欠かせないが、まだ試したことのない教師はおじけづく。ケイティはテクニックを説明したあと、ひとりの参加者を選んで、生徒役を演じる仲間のまえで練習させた。その教師は緊張してしまし、すぐに修正できる単純なまちがいを犯した(質問してから指名すべきところを、名前を先に言ってしまった)。当初の計画では、彼に2分間練習させたあと、ケイティや仲間がフィードバックを与えることになっていたが、苦戦しているのがはっきり見て取れたので、ケイティはフィードバックのループを短くした。


練習を中断するときには、落ち着いて自然な感じになるように気をつけた――まちがいを練習の一部にして、練習中にむずかしいことを経験するのは想定の範囲内だと示したかったのだ。あとほんの少しでうまくできたと伝え、簡単な変更をひとつだけして、もう一度最初からやり直しましょうと言った。まず質問をする。そこでひと呼吸置いて、答える生徒を決める「1分間、頭のなかで何度かくり返してみて、準備ができたらうなずいて合図をして、そうしたらもう一度初めからやりましょう。きっとうまくやれますよ」。


ケイティがフィードバックをループを、「二度」短くしたことに注目してほしい。彼女は教師が苦労しているのを見るとすぐに練習を中断して、フィードバックを与え、それを使って最初からやり直させるようにした。しかし、そのまえに、あらかじめ頭のなかでリハーサルをさせた。教師がもたつきはじめてからケイティが支援するまでほんの数秒、さらにほんの数秒で彼はフィードバックを活用しはじめた。


教師はまだ緊張していたし、フィードバックにも納得していなかったかもしれないが、とにかく言われたとおりにした。ダン・ハースとチップ・ハースが「スイッチ!」で指摘しているように、人は解決策の大きさは問題の大きさと同じくらいだと思いこみがちだ。しかし現実には、小さな変化で大きな(または、大きく感じられた)問題を変えられることがある。これはそのケースだ。もしケイティが練習をほかの人に移して、その教師に失敗の記憶をくっきりと残していたら、問題は大きくなっていたかもしれない。しかしケイティは失敗の記憶を断ち切り、すぐさま成功の記憶に置き換えた。


1回目と2回目のちがいは誰の目にも明らかだった。その教師は1分間テクニックを使って、うまくいったことに満足し、喜んだ。仲間も気づいて、自然にハイタッチと拍手が生まれた。教師にとってはひとつの分岐点になっただけでなく、練習を信じられるようにもなった。


もちろん、断じて割りこまないと決めている場合や、困難な状態を長めに経験させたい場合もあるだろう。たとえば、参加者が学習サイクルが進んでいて、そろそろ現実世界に当てはめる準備をしなければならないときや、実行中に必要になった修正に本人が気づいて自己修正するのを学んでもらいたちときなどだ。そういう本番に近い重要な練習では、このルールはさほど有効でなない。ポイントは、何かを補強するためにフィードバックを使たいとき、「すばやい対応」がいちばん効くということだ。人に何かをさせることが目的ではない場合には(たとえば、設定や状況に慣れるための練習)など、積極的にフィードバックのループを短くしなくてもいい。しかし、練習でやらせる(あるいは、やらせないようにする)あらゆることについて、そのフィードバックのまえに大幅な時間差がないかどうか調べてみる価値はある。ある打ち合わせでまちがいを犯し、それを3カ月後の業績評価で指摘されても、あまり役には立たない。