第2654冊目 成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール ダグ・レモフ (著), エリカ・ウールウェイ (著), ケイティ・ェッツイ (著)


成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

  • 手本と手順書の両方を使う


テクニックをうまく教えるこつは、それがどのようなもので、どうすればよいのか、そこに何が含まれるのかといったことを、明確なことばで説明することだ。手本はそれらすべてを示してくれる。よく工夫された手順書と手本を戦略的に使えば、学習を強力に支援することができる。例をあげよう。


デニスはある非営利団体の開発事業部に就職したばかりだ。新卒の彼女は聡明で、この業界で大きく成長できることなら何にでも取り組む意欲がある。仕事を始めて数週間がたつと、上司がデニスの仕事ぶりを褒め、新たな仕事を与える。出資してくれそうな人に電話をかけ、団体への関心を調査するとともに、将来の資金調達や情報提供のイベントへの参加をうながす仕事だ。デニスが誰かに電話つまり、どうすればいいのかわからない。


こうした電話で失敗すると、デニスはもとより、上司、そしてもっとも深刻なことに組織の評判に影響する。幸い上司はそれに気づき、この種の電話が得意な同僚(ヘレンと呼ぼう)と練習する時間を設けた。デニスはこれ以上ないほどの幸福に恵まれた。ヘレンは出資者への電話が得意なだけでなく、練習を設計することにも長けていたのだ。ヘレンはまず電話のかけ方をいくつかに分類して、概略を「手順書」にまとめ、それぞれに自分の話し方の例をつけた。その手順書を使ってデニスと話し合い、質問に答え、柔軟性があるところに、ないところ――つまりデニスがアドリブを入れていいところと、いけないところ――を説明した。そのあとヘレンはデニスのために「手本」を示した。あらかじめ受け答えを練習しておいてもらった同僚に電話をかけ、ひととおりの流れを見せた。さらにそれを録音して、デニスと話し合うときに、必要な箇所がすぐ再生できるようにした。


新人だった場合、手本があるだけではまだ足りない。もともと高い能力を持つデニスは、ヘレンがすることにきちんと耳を傾けたので、すぐにすばらしい仕事をするだろうが、手順書がなければ、多くことを運まかせにしなければならない。デニスがひとりで電話をかけはじめれば、かならず台本から離れてその場で対応しなければならない場面が出てくる。そんなとき正しい選択をするために、重要な判断基準になるのが「手順書」だ。


一方で、デニスに手順書だけを与えたら、まちがった対応をする余地が多分に残される。不適切な口調や、見下したような口調になるかもしれないし、会話の推移んついてけず、話が不自然な方法へ進んでしまうかもしれない。ヘレンが実演してみせたのは、練習のなかで新しいスキルを教えるときに「手本」と「手順書」のバランスをとるとうことだ。このふたつがそろえば、強力な組み合わせになる。