第2653冊目 成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール ダグ・レモフ (著), エリカ・ウールウェイ (著), ケイティ・ェッツイ (著)


成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

成功する練習の法則―最高の成果を引き出す42のルール

  • 1分1秒を大切にする


もしコーチになりたいなら、いますぐホイッスルを買いにいきないさい――これは文字どおりの意味ではなく、あくまでたとえだが、もしかしたら本当にホイッスルを買いたくなるかもしれない。もちろん、探したとしても見つけるのはたいへんだ。ホイッスルはいまどきクールではない。スポーツ用品店の店員は、あたかも木製のラケットや、時代遅れのポリエステル製のテニスのハーフパンツが欲しいと言われたかのように、ぽかんと見つめ返すだろう。コーチはホイッスルを吹くべきではなく、こんなふうに言うべきだと考えられている。「全員注目。いまやっていることをやめて、こっちに集まれ。たったいま起こったことを話し合おう」。それから練習参加者のまちがいや成功について、懇切丁寧に説明しはじめる。


だが率直に言って、これをやったら最悪だ。数百名が参加する広告営業の訓練であれ、少人数のマネジャーが効果的な業績評価を練習する集まりであれ、教会の聖歌隊の指導であれ、いまのセリフは練習の効果を台なしにしかねない。まう言うだけで10秒から15秒くらいかかる。一度で全員が気づき、耳を傾け、すぐさま駆けつけてきたとしても、(ほかの人がそうしているのを見てから動きだす可能性が高いが)、30秒以内に指導できたら運がいいほうだ。そのときまでに大事な瞬間はすぎている。フィードバックのループは間延びし、効果が損なわれてしまう。さらに深刻なのは、時間を浪費していることだ。


あいにく、プロがたくさん練習しているトレーニングルームで全員の注目を集めるのはたやすくない。彼らは大人で、教室の子供ではない。ホイッスルを持ち出すのは気まずいが、私たちは、そうする必要もあることをアンコモン・スクールズの訓練で身をもって知った。たとえば人々を小さなグループに分け、そのあとやっていることをやめてまた全体で集まるように求めるとき、最初のうちは苦労した。参加者は話しつづけたり、私たちはそれを尊重しながら全員の注目を集めたかったので、話がすべて終わるまで待ち、時間を無駄にしていた。修正しなければならないのはわかっていたから、シンプルに手を叩くことにした。初めてそれを使うときには、手を叩くのは会話を中断してほしい意味だと参加者に説明した。作業を中断しなくない気持ちはわかるし、申しわけないと思う。みさなんが話し合いを重視しているのもうれしいけれども、私たちはみんなの時間を大切にして、最大限活用したいから、すぐ指示にしたがっていただきたい、と説明した。


これはかなりうまくいった。明らかに多くの時間を節約できたが、手を叩くだけでは完璧ではなかった。ときにはそれが偶然なのか故意なのか聞き分けるのがむずかしかった。そこで、合図を改善していった。すばやく3つ叩けば、みな聞き分けることができるし、すぐに反応できることがわかった。ときには3つ叩く10秒前を知らせるために、短く2つ叩くこともある。それで会話を終わらせる準備ができるので、突然中断しなくてすむ。参加者に返答の拍手をさせて、また集合するプロセスに能動的に入れるようにすることもある。このように、小さなグループワークから注意を引き戻す必要があるとき、聞いた人が毎回同じことをする合図として、手を叩く。要するに、それが私たちの「ホイッスル」だ。これにようって文字どおり何時間も節約できる。


すぐれた練習とふつうの練習のちがいは(すぐれた組織とふつうの組織のちがいとも重なるが)、こうしたシステムを確立して、生産活動の効率を極限まで高めているかどうかだ。こうしたシステムがなければ、練習はとにかっく時間の無駄になってしまう。


すぐれた組織は、プロが集まる場でも、大人が相手でも、練習の効率をできるだけよくするために「ホイッスル」――明確でよく目立つ合図――を使って介入する。小さなグループ作業を終えるときにも、休憩終了を知らせるときにもこういう合図を使う(私たちはプロジェクターのスクリーンにオンラインタイマーを映すことにしている。それで10分の休憩時間の残り時間がわかって、10分が20分になることもなくなった)。作業の残り時間も合図で知らせて、参加者に時間どおりに終了してもらう。いつ質問できて、いつそうするべきかも参加者に合図で教える。最後まで質問を控えるべきか、自由に割りこんでいいのかを知らせるということだ(もし後者を認めるのなら、すべての教材を終了できないリスクを考えておかなければならない)。