第2636冊目 プロフェッショナルの条件―いかに成果をあげ、成長するか P・F. ドラッカー (著), Peter F. Drucker (原著), 上田 惇生 (翻訳)


  • 必要なのは勇気だ


優先順位の分析については多くのことがいえる。しかし、優先順位と劣後順位に関して重要なことは、分析ではなく勇気である。優先順位の決定については、いくつかの重要な原則がある。しかしそれらの原則はすべて、分析ではなく勇気に関わるものでる。


すなわち第一に、過去ではなく未来を選ぶことである。第二に、問題ではなく機会に焦点を当てることである。第三に、横並びではなく自らの方向性をもつことである。第四に、無難で容易なものではなく、変革をもたらすものに照準を合わせることである。


科学者についての分析の多くが、少なくともアインシュタインニールス・ボーア、マックス・ブランクなどの天才は別として、科学的な業績は、研究能力よりも機会を追究する勇気によって左右されることを教えている。問題に挑戦するのではなく、容易に成功しそうなものを選ぶようでは、大きな成果はあげられない。膨大な注釈の集まりは生み出せるだろうが、自らの名を冠した法則や思想を生み出すことはできない。大きな業績をあげる者は、機会を中心に優先順位を決め、他の要素は、決定要因ではなく制約要因にすぎないと見る。


同じように、マネジメントの世界においても、大きな成功を収める企業は、既存の製品ラインの中で新製品を出す企業ではなく、技術や事業にイノベーションを目ざす企業である。一般的にいって、小さくて新しいもの、大きくて新しいものも、危険で困難、かつ不確実なことに変わりはない。問題の解決、すなわち昨日の均衡の回復などよりも、機会に成果を変えることのほうが、はるかに生産的である。


優先順位や劣後順位は、現実に照らして検討修正していかなければならない。歴代のアメリカ大統領のうち、就任時の優先順位のリストを変更しなかった者はいない。もちろん優先順位の高い仕事を実現していくことによっても、優先順位は変わっていく。


集中とは、「真に意味のあることは何か」「もっとも重要なことは何か」という観点から、時間と仕事について、自ら意思決定する勇気のことである。この集中こそ、時間や仕事の従者となることなく、逆にそれらの主人となるための唯一の方法である。