第2634冊目 プロフェッショナルの条件―いかに成果をあげ、成長するか P・F. ドラッカー (著), Peter F. Drucker (原著), 上田 惇生 (翻訳)


  • 古くなったものを整理する


集中するための第一の原則は、もはや生産的でなくなった過去のものを捨てることである。そのためには、自らの仕事と部下の仕事を定期的に見直し、「まだ行っていなかったとして、今これに手をつけるか」を問わなければならない。答え無条件にイエスでないかぎり、やめるか、大幅に縮小するべきである。もはや生産的でなくなった過去のもののために、資源を投じてはならない。ただちに、昨日の仕事に充てた第一級の資源、特に人間の強みという稀少な資源を引き揚げ、明日の機会に充てなければならない。


誰もが、好む好まざるにかかわらず、過去がもたらした問題に取り組んでいる。これは避けられないことである。今日という日は、常に昨夜の決定や行動の結果である。


人は、いかなる肩書や地位をもとうとも、明日を知ることはできない。したがって、昨日いかに賢明であり、勇気があったとしても、その決定や行動は、今日になれば問題、混乱、愚かさとなる。企業、政府機関、その他いかなる組織においても、今日の資源は今日使わなければならない。したがって、自分や前任者が昨日行った意思決定や行動の後始末のために、今日、時間とエネルギーと頭を使わなければならなくなる。事実、この種の仕事が時間の半分以上をとる。


しかし、過去の継承たる活動や仕事のうち、成果を期待しえなくなったものを捨てることによって、そのような過去への奉仕は減らしていくことができる。誰でも完全な失敗を捨てることはむずかしくない。完全な失敗は自然に消滅する。ところが昨日の成功は、非生産的となったあとも生き続ける。もう一つ、むしろそれよりもはるかに危険なものがある。本来うまくいくべきでありながら、なぜか成果のあがらない仕事である。


したがって、自らが成果をあげることを望み、組織が成果をあげることを望む者は、常に計画、活動、仕事を点検する。「これは価値があるか」を自問する。答えがノーであるあらば、仕事の成果や組織の業績にとって、真に意味のある仕事に集中するために、それらのものを捨てる。成果をあがえる者は、新しい活動を始める前に必ず古い活動を捨てる。肥満防止のためである。組織は油断するとすぐ、体型を崩し、しまりをなくし、扱いがたいものとなる。人からなる組織も、生物の組織と同じように、スマートかつ筋肉質であり続けなければならない。


新しいものにやさしいものはない。新しいものは、必ず問題にぶつかる。したがって、悪天候に入ったときに切り抜ける手だてを最初から講じておかなければ、失敗は必然である。そして、新しいものを難局から救う唯一の手だてが、仕事のできる人を用意しておくことである。そのような人は、常に忙しい。今の負担を軽くしてやらねば、新しい仕事を引き受けてはもらえない。


新しいもののために新しく人を雇うことは危険である。すでに確立され、順調に運営されている活動を拡張するには、新しく人を雇い入れることができる。だが新しいものは、実績のある人、ベテランによって始めなければならない。新しい仕事というのもは、どこで誰かがすでに行っていることであっても、すべて賭けである。したがって、経験のある人ならば、門外漢を雇って新しい仕事を担当させるなどという、賭けを倍にするまねはしない。よそで働いていたときには天才に見えた人が、自分のところで働き始めて、半年もたたないうちに失敗してしまうという苦い経験は何度も味わっている。


古いものの計画的な廃棄こそ、新しいものを強力に進める唯一の方法である。私の知るかぎり、アイデアが不足している組織はない。創造力が問題ではない。そうではなく、せっかくのよいアイデアを実現すべく仕事をしている組織が少ないことが問題である。みなが、昨日の仕事に忙しすぎる。