第2633冊目 プロフェッショナルの条件―いかに成果をあげ、成長するか P・F. ドラッカー (著), Peter F. Drucker (原著), 上田 惇生 (翻訳)


  • 時間を無駄にしているヒマはない


成果をあげるための秘訣を一つあげるならば、それは集中である。成果をあげる人は、もっとも重要なことから始め、しかも、一度にひとつのことしかしない。


集中が必要なのは、仕事の本質と人間の本質による。いくつかの理由はすでに明らかである。貢献を行うための時間よりも、行わなければならない貢献のほうが多いからである。行うべき貢献を分析すれば、当惑するほど多くの重要な仕事が出てくる。時間を分析すれば、真の貢献をもたらす仕事に割ける時間はあまりに少ないことがわかる。いかに時間を管理しようとおも、時間の半分以上は、依然として自分の時間ではない。時間の収支は、常に赤字である。


上方への貢献に焦点を合わせるほど、まとまった時間が必要になる。忙しさに身を任せるのではなく、成果をあげることに力を入れるためには、継続的な努力が必要となる。成果を得るためのまとまった時間が必要となる。真に生産的な半日、あるいは二週間を手に入れるためには、厳しい自己管理と、ノーといえるだけの不動の決意が必要である。


自らの強みとを生かそうとすれば、その強みを重要な機会に集中する必要を認識する。事実、それ以外に成果をあげる方法はない。二つはおろか、一つでされ、よい仕事をすることはむずかしいという現実が、集中を要求する。人には驚くほど多様な能力がある。人はよろず屋である。だが、その多様性を生産的に使うためには、それらの多様な能力を一つの仕事に集中することが不可欠である。あらゆる能力を一つの成果に向けるには集中しかない。


もちろん、いろいろな人がいる。同時に三つの仕事を手がけ、テンポを変えていったほうがよくできる人がいる。だがそのような人でも、二つの仕事をいずれのいても成果をあげるには、まとまった時間が必要である。ただし、三つの仕事を同時に抱えて卓越した成果をあげる人はほとんどいない。


もちろんモーツァルトがいた。彼はいくつかの曲を同時に進めた。すべてが傑作だった。彼は唯一の例外である。バッハ、ヘンデルハイドンヴェルディは、多作であっても、一度に一曲しか作らなかった。一つを終わらせてからか、一時わきに置いてからでなければ、新しい曲にかからなかった。組織で働く者が仕事のモーツァルトになることは至難である。


集中は、あまりに多くの仕事に囲まれているからこそ必要となる。なぜなら、一度に一つのことを行うことによってのみ、早く仕事ができるからである。時間と労力と資源を集中するほど、実際にやれる仕事の数や種類は多くなる。これこそ困難な仕事をいくつも行う人たちの秘訣である。彼らは一時に一つの仕事をする。その結果、ほかの人たちよりも少ない時間しか必要としない。


かえって、いかなる成果もあげられない人のほうがよく働いている。成果のあがらない人は、第一に、一つの仕事に必要な時間を過小評価する。すべてがうまくいくものと楽観する。だが誰もが知っているように、うまくいくものなど一つもない。予期しないことが、常に起こる。しかも、予期しないことは、ほとんど愉快なことではない。したがって、成果をあげるためには、実査に必要な時間よりも余裕を見なければならない。


第二に、彼らは急ごうとする。そのため、さらに遅れる。成果をあげる者は、時間と競争しない。ゆっくり進む。


第三に、彼らは同時にいくつかのことをする。そのため手がけている仕事のどれ一つにも、まとまった時間を割けない。いずれか一つが問題にぶつかると、すべてがストップする。


成果をあげる人は、多くのことをなさなければならないこと、しかも成果をあげなければならないことを知っている。したがって、自らの時間とエネルギーを、一つのことに集中する。もっとも重要なことを最初に行うべく、集中する。