第2402冊目 「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

「権力」を握る人の法則 (日経ビジネス人文庫)

  • 共感力


交渉力のトレーニングでは、勝ち負けより実利を得ることが大切だと私はアドバイスしている。多くの場合、互いに譲歩し合うことによって、双方に満足のゆく結果に到達することが可能になる。ただしそのためには、相手の立場を理解しなければならない。相手の視点でものを見られるかどうかは、影響力を獲得する重要なポイントの一つである。リンドン・ジョンソンが上院の民主党リーダーとして活躍できたのは、九九名の民主党議員を知り尽くしていたからであると言われる。それぞれの政治的意見はもちろんのこおt、誰が個人事務所を欲しがっているか、誰が大酒飲みで誰が浮気性かといったことまで把握し、どの法案には誰が賛成するかを正確に予測できた。さらに、議員の一人ひとりにどんな材料を持ちかければ支持を得やすいかも知悉していた。


共感力の研究をしているテキサス大学のウィリアム・アイクスは、次のように述べている。


「親身になれる人というのは、他人の考えや感情を正確に読み取れる人である。他の条件がすべて同じであれば、こうした人々が最も的確な助言者、最も有能な外交官、最も手強い交渉人、最も選挙に強い政治家、最も成績のよい営業マン、最も人気のある教師、最も鋭いセラピストになれる」


しかし目先の関心事や自己の利益にとらわれると、他人の立場でものを考えられなくなってしまう。そうなると、周囲を味方につけることはおろそか、敵に回さないことすら覚束なくなる。ローラ・エッサーマンは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校で乳ガン治療法の変革に奮闘していた頃、貧困地区で定期検診サービスの実施も計画しており、そのためにレントゲン車の購入予算を申請していた。ところがエッサーマンが所属する外科部門は赤字続きで、外科部長はレントゲン車を外科部門で負担する必要はあるのかと疑義を提出する。一方、医療センターの財務責任者は、赤字が膨らむと学校債の格付けが下がり、新キャンパス建設に支障をきたすと懸念する。さらに多くの医療関係者が、定期検診サービスでメディケイド(低所得者向け公的医療保険)加入者の乳ガンが大量に発見されたらどうするのか、と気を揉んだ。こうした人々は医療費を払えないことが多いからである。


貧しい人々に十分な治療を提供するとい高邁な理想に燃えていたエッサーマンは、当初こうした懸念を意に介していなかった。だがある日、自分が第一にめざすべきは乳ガン治療法の改善だと気づく。本来の目標から逸脱し、反対を招くような企てに力を注ぐのは得策ではない。そこで彼女は外科部長に電話した。「お考えはもっともだと思います。あの計画は見直します」。そして二週間後にエッサーマンは計画を取り下げた。たったこれだけで、彼女は逆に多くの支持を得ることに成功する。このように、反対者の立場を思いやるのは、回り道のように見えても、むしろ目標に近づくよう方法なのである。