第2339冊目 カリスマは誰でもなれる オリビア・フォックス・カバン (著), 矢羽野 薫 (翻訳)


カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

カリスマは誰でもなれる (ノンフィクション単行本)

  • 王者の威厳


そわそわしているジェームズ・ボンドの姿を想像できるだろうか。服の端をつかみ、頭を小刻みに揺らして、肩を上下させている。話をする前に咳払いをして口ごもる。もちろん、そんなボンドはありえない。ジェームズ・ボンドはとことんクールで、冷静で、落ち着いている。彼は自信そのものだ。


地位の高さと自信を物語るボディランゲージは、動きがかなり少ない。落ち着いた人は「平衡状態」を維持する。服や髪をいじる、顔を触る、絶えずうなずく、話す目に「えーと」と言うなど、関係のない余計なしぐさはしない。


これらのしぐさは、行動科学では低い地位を象徴するしぐさとされ、相手を安心させたい人がよく使う。誰かを安心させたいという思いには2つの出所がある。

  • 共感 相手に自分は理解されていると思わせ、あなたが注意を払っていることを確実に知らせたい。
  • 不安 相手を喜ばせたい、なだめたい。


一方で、パワーと自信と高い地位があると思われている人の場合、しぐさはもう少し控えめだ。相手が何を考えているのか不安でないから、安心させたいという衝動もあまり感じていない。


宮廷で神経質そうな使用人が、不安げに頭を振っておじぎをしている。おじぎの先にいるのは国王だ。国王は、動く必要はない。平衡状態でパワーを使っている。


平衡状態をより長く維持するために、大きく3つの注意点がある。まず、うなずく回数やペースを抑えること。強調や同意を表現するために1回うなずくことは、効果的なコミュニケーションの手法になりうる。ただし、小刻みに3、4回うなずくのはよくない。わたしのあるクライアントの言葉を借りれば「ボブルヘッド人形」だ。


次に、言葉による励ましが多すぎないこと。「ウンウン」と声を出したり、「私も賛成です」という中途半端な表現は、意識して1回やるのはかまわないが、1つの文章に何回も挟むのはよくない。


3つ目は、そわそわした落ち着きのないしぐさ(鉛筆や足をコツコツ鳴らす、テーブルの上の物を並べ替えるなど)を避けること。落ち着きなさはプレゼンスを低下させ、ひいてはカリスマをむしばむ。誠意と自信と精神的なプレゼンスがあっても、体がそわそわと動いていたら、カリスマにはなれない。私の知り合いの若い起業家は、誠意と自信はあるのだが、せわしなく体を揺すり、絶えずそわそわしているせいで、風変わりな人と見なされている。彼は子供のころからじっとしていられず、なかなか真剣に相手をしてもらえない。


このような癖を直すためには、まず、自分が他人にどう見られているかを認識することだ。そこで、会議中や雑談中の自分をビデオに録画してみよう。再生する際は、最初の10分間を早送りする。10分も経てばカメラの存在をほとんど意識しなくなり、遠慮のないボディランゲージが出てくるだろう。1回目は音声を消し、あなたのボディランゲージと、映像の中で最も地位の高い人のボディランゲージを比較する。2回目は音声つきで、あなたが言葉で人を安心させようとする頻度をほかの人と比較する。自分の姿を見るのはつらいかもしれないが、とても価値のあるレッスンだ。映像に映し出させれたあなたがすべてで、他人が見ているあなたなのだ。他人が見ている自分の姿を知っておくといいだろう。


他人の目で自分を見てみると、言語と非言語コミュニケーションでつねに人を安心させようとし、うまくいかないたびに落胆していることに気がついて驚くかもしれない。でも、それは普通のことだ。私のクライアントの多くも、自分が必死にうなずいてばかりいると知って、最初はとても腹が立ったと語っている。


安心してかまわない。このような苛立ちは誰でも経験することであり、「ボブルヘッド人形」の癖は直すことができる。ボブルヘッド人形と命名したクライアントの女性はうれしそうに語る。「今もときどきうなずいているけど、意識的にタイミングを選んでいます」


自分がうなずいていることに気がついたら動きを止め、言葉で相手を安心させようとしてることに気がついたら黙るように意識してみよう。沈黙に慣れるために、しゃべっているときは文章の合間や途中で間をおくようにする。友人や同僚に頼んで、うなずいていたり、安心させる言葉を言ったりしたら指摘してもらうこと、新しい習慣により早く慣れるだろう。小銭を持ち歩き、癖が出たら罰金を払うのも、かなり効果がある。友人や配偶者、同僚に、癖が出るたびに指摘してもらうのがいちばん効果的だ。