第2267目 「権力」を握る人の法則 ジェフリー・フェファー (著), 村井 章子 (翻訳)


「権力」を握る人の法則

「権力」を握る人の法則

  • 権限がないときは政治的手腕が役立つ


働いている人の大半が、自分の権限は小さすぎるとか、もっと影響力を持ちたいと考えているようである。企業では、自分が予算や人事の権限を持ちあわせていない部署に協力を求めなければならない職種が数多くある。たとえばプロダクトマネジャーや部門横断型のプロジェクトマネジャーなどは、その代表例だ。プロダクトマネジャーは、新製品を市場に投入するまでに、研究開発部門、製造部門、営業部門の力を借りなければならない。だがほとんどの消費財メーカーでは、プロダクトマネジャーはいま挙げたどの部門に対しても正規の権限を与えられていない。組織横断型のプロジェクト、たておばエンタープライズ・リソース・プランイング(ERP)を導入するプロジェクトも、同様である。こうしたプロジェクトでは、IT部門の人間がプロジェクトマネジャーを務めることが多い。システムの導入をスムーズに進めるためには、業務部門からデータを提供してもらわなければならないし、事務部門の協力も得なければならないが、IT出身のプロジェクトマネジャーは、彼らに対する正規の権限を持ちあわせていない。このように、大きな組織では責任と権限が必ずしも一致していない。現代の企業では組織構造が複雑化する傾向にあり、部門どうしが重なり合い、指揮系統が錯綜するうえ、多様な知識と知恵を持ち寄るために、タスクフォースなど一時的なチームが編成されることが多い。そのうえスピードを要求されるとなれば、任務の遂行や問題の解決はますますむずかしくなる。


権限の届く範囲外にいる人間を束ねて任務を達成しなければならない状況では、政治的手腕がモノを言う。専門知識やスキルを備えているだけでは不十分であり、組織内の力関係をよく理解していることが大切になる。第3章で取り上げたSAPの経営幹部ジア・ユーサフは、組織横断型プロジェクトを運営する名手である。彼は社内コンサルティ運具・グループのリーダーとして、またエコシステム・グループのトップとして、数々のプロジェクトに携わってきた。技術畑出身ではなく、しかも当初は転職してきたばかりだった彼が成功したのは、二つの理由がある。第一に、何よりもまず質の高い卓越した仕事をして実績を作ったこと。これで社内の信頼を獲得し、プロジェクトに優秀な人材を集められるようになった。そして第二は、組織のパワーポリティクスを理解していたことである。部門や立場によって見方はどうちがうか、どの人がキーパーソンで、どうすれば説得できるか、よい人間関係を築くにはどうしたらいいか――ユーサフは聡明にこうした点を見抜き、対処していった。