第2175冊目 ユマニチュード入門 本田 美和子 (著), ロゼット マレスコッティ (著), イヴ ジネスト (著)


ユマニチュード入門

ユマニチュード入門

  • 知覚の連結


ケアの了解が得られたら、次のステップに移ります。ケアを実際に行う最も重要な部分です。先の友人宅を訪問した際のたとえ話でいえば、一緒に夕食を食べうる段階ですね。


ここでのポイントは次の2つです。


●常に「見る」「話す」「触れる」のうちの2つを行うこと。
●五感から得られる情報は常に同じ意味を伝えること。


2つ以上の感覚を使う


ケアをする人が発しているつもりのメッセージが相手にまったく届いていない状態でケアが始まってしまうと、ケアを受ける人は驚きます。驚きが重なるとイライラして怒りにつながります。


たとえば、「見る」「話す」「触れる」の情報がうちいずれか1つしか使っていないために、ポジティブな感覚が相手に十分伝わらず、ケアの途中から拒否が始まる場合もあります。


複数の知覚情報を矛盾させない


笑顔で優しく話していても、時間を気にするあまり早く短いストロークでごしごしと体を拭いてしまっては、ケアをする人がハッするメッセージがちぐはぐになり、全体としてポジティブな感覚を伝えることに失敗してしまいます。


つまり、ここで大切なのは、相手の視覚・聴覚・触覚のうち、少なくとも2つ以上の感覚へ、調和的でポジティブな情報を伝え続けることなのです。少しわかりにくいのに、具体的に説明します。


たとえばわたしたちは、優しい声と笑顔で「服を脱ぎますね、大丈夫ですよ」と言いながら、袖から腕を抜くために、つい手首をつかんで持ち上げてしまいます。また、「あちらで体操をしているので一緒に行きましょうか」と本人の背後から優しく声をかけながら、返事を待たずに腕をつかんで歩行介助をすることがあります。


このとき、ケアを受ける人の身には何が起きているのでしょうか。ケアする人は優しくケアをしようとして、相手の視覚や聴覚へはポジティブなメッセージを届けているのですが、無意識に腕をつかんで上に持ち上げたり、いきなり腕をつかんで歩行介助をしたりすることで、視覚・聴覚とは異なる「負のメッセージ」を触覚に与えてしまっているのです。その瞬間に、それまでどんなにうまくかかわっていたとしても否定的な感情が芽生えてしまい、これがケアの拒否へとつながっていきます。