第2144冊目 スタンフォードの自分を変える教室 ケリー・マクゴニガル (著), 神崎 朗子 (翻訳)


スタンフォードの自分を変える教室

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「恥の効果」を利用する


「みごと20キロ痩せて高校の同窓会に顔を出したら……」みんなの驚いた顔を想像すれば、みんな毎朝早起きしてエクササイズする気になるでしょうか? また、「タバコを吸ったら9歳の息子ががっかりするだろうな」そう思えば、仕事中でもタバコを我慢できますか?


どうすべきか迷っているとき、私たちはつい、人にどう思われるだろうかと考えます。研究によれば、これをうまく利用することによって自己コントロールを強化することができると想像する人は、最後までやりとげて成功する確率が高くなります。いっぽう、「人に呆れられるかもしれない」と想像するのも効果的です。ちゃんと避妊もせずにセックスをしたのを誰かに知られたらどんなに恥ずかしいだろうと思うと、コンドームを使う確率が高くなります。


ノースイースタン大学の心理学者デイヴィッド・デステノは、「プライド」や「恥」などの社会的な感情は、長い目で見た損得をふまえた理性的な議論よりも、私たちの選択に対して速やかで直接的な影響を及ぼす、と主張しています。


デステノはこれを「非理性的な自己コントロール」と呼んでいます。私たちは、自己コントロールは一般的に非理性的な衝動に対する冷静な理性の勝利だと考えています。けれども、プライドや恥というのは、論理的な前頭前皮質ではなく、感情をつかさどる脳の領域の働きによるものです。


社会的な感情は、仲間とよい関係を保つために発達したのかもしれません。ちょうど、身の安全を図るには恐怖心が役立ったり、攻撃から身を守るには怒りが役立ったりするのと同じです。周りの人たちに認めてもらえるだろうか、あるいは認めてもらえないだろうかと想像することで、正しいことをしようという気持ちが強くなると言えるでしょう。


いくつかの企業や地域では、不法行為や社会的な破壊行動に対し、通常の処罰を行なう代わりに社会的に恥をかかせるという取り組みを始めました。もし、あなたがマンハッタンのチャイナタウンのスーパーで万引きの現場を見つかったら、盗もうとした品物を手に持った姿を写真に撮られます。その写真は店のレジ近くの壁に貼り出され、「大泥棒」と書かれたうえに、名前や住所なで公表されてしまうのです。


シカゴ警察は買春で捕まった男性らの氏名と写真を公表する方針を決定しました。そのねらいは捕まった人たちを罰することよりも、むしろ買春をたくらんでいる人たちを震え上がらせることでした。


シカゴ市長のリチャード・M・デイリーはこの政策を支持し、記者会見でこう述べました。


「シカゴに足を踏み入れた人は誰であれ、買春をしたら逮捕されます。逮捕されたら、みんなに知れ渡ります。配偶者や子どもたち、友人、近所の人、そして雇用主にもです」


買春経験のあるシカゴの男性を対象に行った調査によれば、この政策が有効であることがわかります。地元の新聞に写真や名前が載るというのは、買春の抑止力として最大の効果があるようです(インタビューを受けた男性のうち87パーセントが、それを考えると躊躇してしまうと答えています)。牢屋に入れるよりも、免停になるよりも、1000ドル以上の罰金を払うよりも、写真や名前を公表されるのがいちばん堪えるという結果が出たのでした。