第2134冊目 FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫) ジョー ナヴァロ (著), マーヴィン カーリンズ (著), 西田 美緒子 (翻訳)


FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

  • 着ているもので決まる

次のようなシナリオを考えてみよう。ある晩、人気の少ない通りを歩いていると、背後から誰かが近付いてくる気配がする。暗がりでその人の顔や手は見えないものの、スーツを着てネクタイを締め、手にはブリーフケースを持っているのがわかった。次に同じ暗がりの歩道を想像してみるが、今度は振り返ると、だらしないダブダブの服を着た人物のシルエットが浮かんだ。腰ばきのズボン、斜めにかぶったキャップ、よれたTシャツ、履きつぶしたテニスシューズ。どちらの場合も、それ以上細かいところを見極められるほどよく見えず、ただ服装の感じから男性だと思っているだけだ。しかしこのような状況では、服装だけを基準にして、それぞれの人が安全を脅かす可能性について異なる結論を導くことになるだろう。二人が近付いてくる速さが同じでも、近付くにつれて大脳辺縁系は異なる反応を示し、相手に対する反応の基準は服装だけになる。状況判断に応じて、快適に感じるか、不快に感じるか、または恐怖さえ感じるわけだ。


どちらの人物のほうを快適に感じるかは、それぞれの判断にまかされる。ただし、正しいにしても誤っているにしても、ほかのすべてが同じならば、服装は相手からどう思われるかを大きく左右する。服装そのものが人を傷つけるわけではないが、社会的な影響力をもっている。二〇〇一年九月一一以降、一部のアメリカ人は中東出身者を思わせる服装を目にするだけで、どれほど性急な判断を下して疑心暗鬼になっているかを考えてほしい。そしてその結果、一部の中東系アメリカ人がどんな思いを抱いているか、想像してほしい。


私は大学生たちに、人生は常に公平なものではなく、残念ながら服装で判断されることもあると教えている。だから服装と、その服装が発しているメッセージについて、よく考える必要がある。

  • 見た目がすべてではない


もちろん、服装で人を評価するときには慎重を期さなければならない。誤った結論を導くことがあるからだ。私は昨年ロンドンに滞在したとき、バッキンガム宮殿から四ブロックしか離れていない高級ホテルに宿泊していたが、そこではメイドも含めたスタッフ全員がアルマーニのスーツを着ていた。もし通勤途中に彼らを電車の中で見かけたなら、その相対的な社会的地位を誤解したにちがいない。服装は文化ごとに異なり、巧みに操ることもできるのだから、ノンバーバルの図式のほんの一部にすぎないことを覚えてほしい。服装で人を判断するのではなく、その服装がメッセージを送っているかどうかを見極めるために、服装を評価しよう。


警告を発したばかりではあるけれど、服装については、ノンバーバルによる評価の全体構造の中で考える必要がある。だから私たちは、周囲の人々の行動に影響を与え、少しでも自分に好意的になるよう、自分の利益になるようにしたいなら、周囲に向かって送りたいメッセージに合った服装を着ることが大切だ。


洋服やアクセサリーを選ぶときには、それらを身につけたときに発するメッセージと、周囲の人々がその洋服から受け取るかもしれない意味を、いつも考えなければならない。また、自分としてはひとりの人や特定のグループの人たちに、ある特定の時間と場所でシグナルを送りたくて、意図的に服装を使いたいと思うかもしれないが、その場所まで行く道のりで、メッセージを好意的に受け止めないたくさんの人たちの前を通らせなければならないことも考える必要がある!


私はセミナーで、よくこんな質問をする。「今朝、お母さんに服を着せてもらった人は何人いますか?」もちろんみんな大笑いして、誰も手をあげない。そこでこう言う。「それなら、みなさんは、全員が、自分で服装を選んだのですね?」すると全員がまわりを見回し、おそらくそのとき初めて、服装についてもっとよく考え、自分をよく見えることもできることに気付くのだ。結局のところ、直接話をしたことのない二人が相手について知っていることといえば、見かけなどのノンバーバル・コミュニケーションしかない。自分が相手からどんなふうに見えるのか、考える必要がある。