第2133冊目 FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学  ジョー ナヴァロ (著), マーヴィン カーリンズ (著), 西田 美緒子 (翻訳)


FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

  • 体の前面をそむける、体の前面をまっすぐ向ける


辺縁系が、遠ざかりたい、避けたいという感情に応じて命じた胴体の動きを見れば、本当の気持ちがとてもよくわかる。人間関係で、一方の人がどこかうまくいっていないと思ったときは、たいてい相手がわずかながら体を遠ざけていると感じたのが原因だ。体を遠ざけるという動作は、「体の前面をそむける」という形をとることもある。私たちの体の前面(腹側)には、目や口、胸や乳房、生殖器などがあって、好き嫌いにとても敏感に反応する。気持ちがよければ、体の前面を好きなもののほうにまっすぐ向け、すべてをさらけ出す。心地よくさせてくれる人に対しても同じことが言える。その反対に、何かがうまくいかなくなったり、人間関係が変化したり、嫌いなことについて話していたりすると、私たちは体の位置や向けを変えて「前面をそむける」。体の前側は人体の中で最も攻撃に弱い面なので、辺縁系は私たちを傷つけたり困らせたりするものからなんとかそこを守る必要がある。たとえば、パーティーで嫌いな人が近付いてくるのが見えると、とっさに、無意識のうちに、わずかに体の向きを横にしてしまうのは、そんな理由があるからだ。恋人同士の場合、前面をそむける機会が増えれば、関係がこわれそうな何よりの目安になる。


視覚から得る情報に加えて、大脳辺縁系は不快な会話にも反応することががある。テレビのトーク番組を、音声を消して見てみるといい。ゲストが反対意見を言いながら、上体をそらして相手から離れようとするのがはっきり見えるだろう。つい最近、共和党大統領候補の討論番組を見ていたら、候補者の間には十分すぎるほどの空間があったのに、賛成できない意見が持ち出されるごとに互いに体をのけぞらせ、遠ざかっていた。


体の前面をそむける行動の逆は、前面をまっすぐ向ける行動だ。私たちは好きなもののほうに前面を見せる。子どもたちが抱きつこうと駆け寄ってきたら、邪魔なものをよけ、腕も広げて、体の正面で迎え入れる。前面をまっすぐ向けるのは、そこが温もりと心地よさを最もよく感じられる場所だからだ。人やものに否定的になることを表す「背を向ける」という言葉は、私たちが好きなものには体の前面を、嫌いなものには背中を向けることから生まれた。


同じように、私たちは好きなもののほうに胴体と肩を傾けて、心地よさを表現する。教室の場合、生徒は好きな教師の授業のときには体を教壇のほうに傾け、自分でも気付かないうちに椅子からはみ出すほど身を乗り出して、ひとことも聞き逃すまいと熱心に聞いていることが多い。映画『インディ・ジョーンズ/レイダース 失われたアーク』で、学生たちが教授の話に身を乗り出しているシーンを覚えているだろうか。学生たちのノンバーバルは、明らかに教授を認めていることを物語っていた。


恋人同士がコーヒーテーブルに向かい合ってもたれ、顔を近付けて親しげに見つめ合っている場面をよく見かける。そんな二人は体の前面をまっすぐ相手に向け、最も傷つきやすい部分をさらしている。これはごく自然な、社会の利益になる辺縁系の反応だ。人やものが好きなとき、近付いて前の(最も弱い)面をさらすことによって、自分が自由な気持ちで接していることを示す。そしてこの姿勢をミラーリングによって交換すれば、親密さが行き来し、感謝の気持ちが反映されて、社会の調和がもたらされることになる。


体を傾ける、遠ざかる、前面をそむけたりまっすぐ向けたりするなどの、胴体によるノンバーバル辺縁系行動は、会議室ではおなじみのものだ。気の合う同僚たちはあまり距離を置かずに座り、前面をまっすぐ相手に向けて、前かがみになって仲良さそうに上体を近づける。ところが意見が対立すると、体を固くし、(何か言われないかぎり)体の前面をそむけ、上体をそらして遠ざかろうとする。この行動は無意識で相手に、「私はあなたの意見に賛成していない」と伝えている。ただし、すべてのノンバーバルに共通の点として、こうした行動も前後関係に即して分析しなければならない。たとえば、新任の人なら会議で自由に振る舞えず、ぎこちない動きになるだろう。この場合には、姿勢が固くて腕の動きが少なくても、別に反感や不賛成のサインではない。単に新しい環境で神経質になっているだけだ。


こうした情報は、他人のボディランゲージを読み取るのに使えるばかりではない。自分もまた、自分自身のノンバーバルを周囲に見せていることを、いつも自覚している必要がある。おしゃべりや会合の席では、情報や意見が飛び交い、耳にしたニュースや見方に対する感情もまた飛び交って、変化し続ける私たちのノンバーバル行動に反映されていく。ある瞬間に不愉快なことを耳にし、次の瞬間に嬉しい話を聞けば、私たちの体は気持ちの変化をありのままに映し出すだろう。