第2135冊目 FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫) ジョー ナヴァロ (著), マーヴィン カーリンズ (著), 西田 美緒子 (翻訳)


FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

FBI捜査官が教える「しぐさ」の心理学 (河出文庫)

  • 子どもを守る


私は運動のために近くのプールで定期的に泳いでいる。何年か前、いつもは人なつこくて明るい女の子が、母親といっしょにいるときだけ腕の動きを止めていることに気付いた。一度ではなく、何回か違う日に会っても同じことだった。そのうえ、母親の女の子に対する口調は厳しく、ひどい言葉を投げかけているのもよく耳にした。愛情のこまらない手荒な扱いも垣間見え、その様子はとても不安を感じさせるものだったが、犯罪というほどでもなかった。そしてとうとう女の子をそこで見かけた最後の日、ひじの少し上にあたる腕の内側(腕を体の横に自然に垂らしたとき、胴体に向かっている面)に、アザがいくつかあるのを見つけた。もう、黙っているわけにはいかなかった。


そこで私は、プールの職員に児童虐待の疑いを伝え、その小さな女の子によく目を配ってくれるように頼んでみた。するとある職員が、女の子は「特殊支援」が必要な子どもで、アザができたのは、体のバランスをうまくとれないせいではないかと言った。私は不安の大きさを理解してもらえなかったと感じたので、プールの責任者に会って心配を訴えた。そして、転んだときにできる防御創は上腕の内側にはできず、ひじか、腕の外側にできるはずだと説明した。また、母親が近くに来るといつも女の子がロボットのような動きになってしまうのは、偶然ではないことも話した。プールでほかにも同じことに気付いた人がいたので、後にこの件は当局に通知されたと知り、ひと安心した。


大切なことを指摘しておきたい。親、教師、キャンプのカウンセラー、学校関係者で、子どもが親やほかの大人のそばにいるときだけ大きく変化したり、腕の動きを止めたりするのに気付いたなら、少なくとも関心を寄せ、さらに細かい観察を勧めなければならない。腕の動きが止まるのは、辺縁系による固まる反応の一部だ。虐待されている子どもにとっては、この適応行動が、生き残りにつながる。


たぶん、FBI気質が抜けていないのだろうが、公園で遊んでいる子どもたちを見ると、ついつい腕に目をやってアザや傷がないか確かめずにはいられない。悲しいことだが、世界中で虐待されている子どもたちの数は非常に多く、私はトレーニング中に子どもなどからネグレクト(育児放棄)や虐待のサインを見つける指導を受けた。法の執行機関で働いていたからだけでなく、父親としての経験からも、転んだりぶつけたりしたアザがどんなふうに見えるか、また体のどこにできるかもよく知っている。虐待でできるアザは同じではない。場所も見たところも違っていて、訓練を積めばその違いを見分けられるようになる。


すでに述べたとおり、人間は腕で身を守る。それは予想できる辺縁系の反応だ。子どもは防御の第一の手段として、腕を使って自分の体を守ろうとするので(大人はものを使う)、虐待する親は子どもが激しく振る腕を最初につかもとすることが多い。このようにして親が乱暴に捕まえれば、子どもの腕の内側に圧迫したアザが残る。特に親が腕をつかんだまま激しくゆすると、(圧迫が強まって)アザの色は濃くなり、大人の手のように大きい形や、大人の手の指のように長い形になる。


医師や公安の係官は小さな被害者や患者の体でこうしたアザを日常的に見ているが、たいていの人はそれがどれほど多いのか、またどれだけ重要なのかに気付いていない。誰もが子どもたちを注意深く観察して、虐待の明らかなサインを見つける方法を覚えれば、無邪気な子どもたちを守る手助けができるだろう。だからと言って、考えすぎたり、理不尽に疑ったりする必要もない。ただ、気付くようになってほしいだけだ。まわりの大人たちが、防御創とそのほかの虐待による傷の見え方をよく知れば知るほど、そして私たちがそうした傷をよく観察するようになるほど、子どもたちはより安全になっていくだろう。私たちは子どもに明るい毎日を過ごしてほしいと願い、恐怖で腕の動きを止めるのではなく、喜びで腕を大きく振っておしいと願っている。


腕の動きを止める行動は、子どもだけのものではない。大人でも、さまざまな理由で怒る。


アリゾナ州ユマで税関の検査官をしている友人が、国境では入国する人たちのハンドバッグの持ち方に注目すると話していた。ハンドバッグの中に入っているものを心配している人は――価値があるもの、違法なものにかからわず――バッグをきつく握りしめる傾向があり、特に税関のカウンターに近付くにつれてそれが目立つという。腕は、大切なものだけでなく、人に気付かれたくないものを守ろうとする。